チャッキー君

「人生の迷子登場!」

イルカがそう言いながら、コタツにスライディングした。

「おかえりなさい」

カカシは動じることなく、手にしたミカンをむき始める。

「カカシ先生、あなたのその冷静な態度はいかがなものかと思います」

「反応を期待しないでいただきたい。そして奇行を反省しろ」

「お断りします」

「いや、断るな」

「っていうかぁ、なんで俺の家でまったりしているんですかぁ?」

「くっそウザい。近年まれにみるウザさに茫然自失」

「呆れるにはまだ早いですよ」

「うん、そのサプライズは心底いらない。ゆえに胸にしまっておいて」

「胸元にしまっておくと、居心地が悪いと思うんで」

コタツの上にそっと置かれたのは、半目になっているまだら模様の爬虫類。

「ヒョウモントカゲモドキのチャッキー君です」

「あらやだ、浮気?」

「彼に魅力があり、魅惑の存在であることは疑いようもありません」

「ひと科である時点で、俺の勝利」

「驕るな、霊長類」

「どこのラスボス発言だよ」

「冗談はさておき、ヒョウモントカゲモドキのチャッキー君です」

「一分ほど前から存じ上げていますが」

「可愛すぎて、悶えるレベルですよね!」

「お願い、同意を求めないで。そして、受け入れてる前提で会話をしないでください」

「爬虫類はお嫌いですか?」

「そもそも爬虫類に対して感情を抱いたことがありません」

「……またまたぁ」

冗談と受け取ったイルカだったが、カカシのどこまでも冷たい視線で、それが真実だと知り、声をあげる。

「嘘でしょ!?」

「なんでそこまで驚けるのかが不思議でしょうがない」

「純粋で自由気ままな瞳に魅了されません?」

「自分のことを語っているんでしょうか」

「俺のことをそんな目で見ていたんですね。自分の色香に驚愕するばかりです」

「殴ってもよろしいでしょうか」

「俺が殴ってからでよろしければ」

「じゃあ止めておきます」

「そうですか」

黙々とミカンを食べ始めるカカシ、そしてチャッキー君と親交を深めるイルカ。

「飼うんですか?」

二つ目のミカンに手を出したところでカカシが問う。

「友人に頼まれて実現した逢瀬でしかありません。チャッキー君は明日、自分のいるべき場所に戻る。悲しいかな、それが現実です」

「そうでしたか。邪魔をして申し訳ありません。残り少ない時間、彼と存分に交流してください」

しんみりした時間が流れた。

「カカシ先生、一つ質問なんですが」

一時間ほどして、チャッキー君と見詰め合っていた視線がカカシに移る。

「……なんで俺の家にいるんですか。明らかに不法侵入ですよね」

「親交を深めようかと」

「立場が上の方に勝手に上がりこまれた人間の心境を考えたことがおありでしょうか。粗相があってはいけないと気を張るばかりです」

「初っ端から今に至るまで、イルカ先生の自由人っぷりは遺憾なく発揮されていましたが」

「カカシ先生と顔を合わせるのは三度目だと記憶しております。つまりただの知り合い。顔見知り。それ以上でも以下でもありません。っつーか三度目が不法侵入って斜め上過ぎるだろ」

「あんたの適応力はその上をいってますね」

「褒められた!」

──やっぱりこの人、愉快な程に変だわ。

知り合ったばかりの二人。これがどちらの感想なのかは当人のみぞ知る。

チャッキー君はそんな二人を、口角を上げて笑うような表情で見つめていた。


2018.01.21

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