夏バテ

「イルカ先生、夏バテ治りました?」

「最近、昔より面白みも若さもなくなってきたんじゃないかと不安でいっぱいなんですが、元気です」

朝一でこの世の終わりみたいな顔をしていた男が、夕刻に無理をしている男の顔で親指を立ててみせる。

「……よくわかりませんが、それが大人になるってことじゃないでしょうか」

「どうでもいい発言はどうでもよろしい」

「バテてるせいか言語中枢がおかしくなってますよ。っつーか昔より若くないって、当たり前すぎてどうコメントしていいかわかりませんでした。おかげで俺もワケわからん発言しちゃいましたがな」

「人のせいにするなんて嘆かわしい。カカシ先生はいつもそうです」

「気のせいです」

「無駄な反応力だけ培われましたね」

「誰のせいかな?」

「俺の功績でしたか」

「自分で無駄と言いながら、手柄にしようとせんでください」

「この世に無駄なことなんてありませんよ?」

「自分の発言丸ごと見直せばいいと思う」

「無駄な努力ですよ。俺が過去を振り返るとお思いですか?」

「思ってないけど、希望くらい残してくれてもいいんじゃないかな」

「腹が立つであろう顔で『ざーんねんでしたー』って言っても殴りません?」

「年のせいか、保身に走るイルカ先生を見るのは辛いものです」

カカシはわりと本気で拳を振ったのだが、かわされた。

この中忍、実は相当な実力の持ち主かと目を見張ったが、その直後に壁に頭をぶつけて悶絶する姿を目にし、思い込みって怖いよねと悲しげな笑みを浮かべる。

「とりあえず、頭大丈夫ですか?」

「ダブルミーニングだ、これ!」

「ネガティブすぎて怖い。純粋に心配しただけなのに、突然始まる被害妄想が怖い」

「ラブストーリーも被害妄想も突然なんですよ」

「頭打っちゃってたからなぁ」

「悪意しか伝わってこないんですが、俺の気のせいでしょうか」

「イルカ先生がそう受け取ったなら、それを真実とするしかないかと」

「バテて弱っているせいか、優しさが欲しいのでお願いします」

「先ほどの俺の発言を、すべてイルカ先生を心配している風に受け取ってみてはいかがでしょう」

目を閉じてしばし過去を振り返っていたかと思うと、イルカが突然頭を抱え出す。

「己の発言のせいで、同情にしか受け取れないんですが!?」

「知らんがな」

「っつーか心配してる『風』ってなんですか。心配してなかったけど、とりあえずそう受け取れ感が半端ねぇ!」

「真実はいつも残酷ですよね」

「……一回でしたら、チャンスを差し上げます」

「上から目線でやり直しの希望を求めんでください。まぁ、体調崩してるから心配はしてるんですけど」

「カカシ先生、実は優しい人だったんですね」

「忍なのに体調管理できてなくて、社会人として大丈夫かなぁと」

「そんな予測可能な嫌がらせ発言に動じる俺ではありませんが、心が折れた音がしたので、今日は鰻が食べたいです」

「判断難しいな、おい。というか内臓弱ってるんですから無茶すんな」

「蒲焼を希望する!」

「やかましい、今日はおかゆです」

と言いつつカレーを作ってみたら、イルカは見事にたいらげて、満足気に就寝した。

今日は平和な一日だったな。

色々基準がおかしくなっているカカシは、そんなことを思いながら眠りについたのだった。


2017.08.27

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