線香
「カカシ先生、文字が出てくる線香をもらったんですけど、どうですか?」
「いや、どうと言われましても」
「目ん玉見開いてかぶりつきになりたいのを、必死に抑える必要はありませんよ?」
「煙たくて目玉が大惨事だよ」
「というわけで」
人の話を聞かないイルカが、線香のセッティングをする。
「文字が出てくるだけですよ?」
ガッカリしてウザさが増す前にイルカを止めようとしたが、無駄だった。
線香にライターが近付けられ、煙が立ち上っていく。
二人は無言でそれを見つめた。
文字だけが出てくるのかと思いきや、三分ほどして姿を現し始めたのは、仏様の絵だった。
「おぉ、凄いですね」
言いながら、カカシがイルカを見る。
何故か眉間にシワを寄せていた。
「あれ? 俺、普通に感動したんですけど」
「俺も職人の技に感動しました。そして悔しいのです」
イルカの指差す先には、件の仏様の絵があった。
「いい具合に顔が微妙すぎる!」
「罰当たりすぎだろ!」
「称賛ですよ!?」
「それを言っときゃ許されると思わんでください」
「俺は本気です」
「なおタチが悪いな、おい」
「のっぺり顔の仏様と流麗な文字とのバランスが、また絶妙ですね」
「あんたが誉めれば誉めるほど、その対象と関係者に謝り倒したくなる不思議」
「イルカは、自動謝り器を手に入れた」
「謝るという行為には感情も大切なんですよ?」
「大丈夫、カカシ先生の気持ちは溢れんばかりでしょうから……といいますか、感動してたはずなのに、何故謝らねばならんのかが疑問なんですが」
「誉めるにしても、言葉を選ばないとダイナシって話です」
「のっぺりを愉快やらザ・卵と言い換えたところで、なにが変わるというのでしょう」
「選べと申し上げた」
「厳選致した」
カカシが正拳突きの構えを取る。
イルカが座布団と言う名の盾を手にする。
線香からのぼる最後の煙がスーッと消えたのを合図にして、二人の男の熱き戦いが始まったのだった。
2014.9.25
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