高速

「健康の為に尻歩き!」

イルカが尻で床を擦りながら高速で移動し始めた。

「動きがキモい」

横で見ていたカカシが呟く。

「健康にいいらしいので、カカシ先生も一緒にいかがですか?」

「気持ち悪かったので結構です」

「全国の尻歩きをしている人に、今すぐ謝ってください」

「尻歩きじゃなくて、高速移動するイルカ先生に対する言葉ですよ」

「プロですから」

「誉めてない上に、昨日まで尻歩きなんてしてなかったでしょうが」

「さっき思い付きでやってみたら、思いの外いい動きができました。己の才能が怖いです」

「尻歩きに才能が必要ですかね?」

「やってみてごらんなさい」

カカシがイルカの動きを真似てみる。

上手く前に進めない。

「なん……だと?」

「カカシ先生も気付いたようですね。尻歩き……それは訓練した者のみが体得できる究極の歩行術なのです!」

「訓練してから言え」

「なぜ訓練してまで尻で歩かなければならないんです?」

「俺が訊きたいわ! っつーか健康のためとか言ってませんでした?」

「あっ、俺健康なんで」

「会話がしたい」

「会話で思い出しました。夕飯がありません」

「なぜそれで思い出したのか不明ですが、買い出しに行きましょうか」

「空腹時に慣れない体勢で高速移動したので、気持ちが……悪い……」

「プロ根性みせろや」

「無茶を言いなさる」

「体調の悪いイルカ先生の夕飯は、ゴーヤスムージーになりますが」

「腹の辺りがモヤッとするので、匍匐前進でよろしければご一緒します。あと俺はガーリックライスとステーキ希望です」

微笑みあう二人が熱き攻防を繰り広げ始めたのは、それから一分後のことだった。

これは、イルカが元気でよかったね、というお話。


2014.7.16

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