ヒーロー
「戦隊物と単体変身ヒーローだったら、どちらが子どもの心を掴めるのでしょうか」
「対象年齢が違うでしょ」
イルカはカカシの台詞に目を見開く。
「混ぜればいいのか」
「それ混ざらないから。っつーか、今しがたの俺の台詞を完全に無視しましたね」
「やだ、かまってちゃんウザい」
「イルカ先生の発言に返答した過去の俺よ、お前はアホだ」
「相手に噛みつかず、まず自らの行動に目を向ける姿勢は、悪くないと思います」
「無駄な努力と言うものが、この世にあると教えてくれたイルカ先生のおかげですよ」
「これでも、人にものを教える職についてますからね」
「嫌味なんてものは、通じなければ感謝や称賛とも受け取られてしまうと知った時は、正直驚きました」
「驚きは脳が活性化されますから、いいことですよ」
「脳にはよくても、精神衛生上は大変よろしくありませんけどね」
「ストレスでも溜めてるんですか? それはいけない」
「あんたのせいだー!」
イルカは自分を指差し、小首を傾げる。そして苦笑いを浮かべながら手を横に振った。
「なに『まっさかー、ご冗談を』みたいな態度取ってんですか」
「カカシ先生は溜め込む質だから、ワザと大声が出せるシチュエーションを演出してみたまでですよ」
「嘘をつかんでください」
「……騙されていればいい話で終わったものを!」
「どうせなら、最後まで騙す努力を放棄せんでいただきたい」
「それだと本当に騙されて、いい話で終わっちゃうじゃないですか、イエロー」
「戦隊物に組み込むな」
「一緒に子どもに夢を与えましょうよ。夢は大切ですよ。こんな世の中だからこそ、ヒーローショーで子どもを楽しませてあげたいんです、ピンク」
「その二役はねぇよ。っつーか、ほっといたら何役回ってくるのか逆に気になるわ」
「何役やってもバイト代は一人分ですけどね」
「バイトかよ」
「商店主催のお祭で、ステージの出し物を任されました」
「お断りしてきなさい」
「幼いうちから生々しいリアルを知る機会を、子どもたちから奪うのですか!?」
「案の定、夢がどっかいった!」
「今から楽しみです」
クククとイルカが笑った。
次の日、ステージの企画副担当を商店に申し出た男がいたそうだが、それはまた別のお話。
2014.5.29
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