もずく

「気持ちの悪いものをカワイイと言う風潮、なんとかなりませんかね」

イルカが苦笑いでそんなことを言った。

「……言われたんですか?」

「カカシ先生って、たまにとんでもなく失礼だと思います。っつーか全身全霊で俺に詫びろ」

「全力で断る。イルカ先生のことだから、そんな流れだと思ったんですけどねぇ」

「人のせいにして、安全地帯に居たがるダメな大人が目の前にいました」

「俺の目の前にもいますね」

「俺の手作り、魚面の魚子ちゃんのことですか」

カカシは視線を落としてちゃぶ台の上を見た。

リアルな魚の頭に、着物を身につけた艶かしい女体、本来腕のある場所からは何故か長さ違いの触手が五本ずつ伸びている。

「って、まじでキモい! なにこれキモい!」

「なにこれ、と言われましても、先ほど申し上げましたよね?」

「魚子の生物学的分類を聞いとるんですよ!」

「答える義務はありません」

「含みを持たせないで。冒涜的な生物と言われた方がまだマシです」

「冒涜的ではありますが、意外とカワイイ?」

「キモいって言ってるんだから勘弁しろや」

「ブラァーボォォーウ!」

イルカは涙を流さんばかりの顔で拍手した。

「素晴らしい……素晴らしい反応ですよ、カカシ先生! ベタな反応ではありますが、王道と言い換えれば許せる範囲の素晴らしさです!」

「誉めるか貶すか上から目線か、せめて二つに絞って」

「では、どこまでも上から目線で」

「態度のデケェ中忍だな」

「一つにまで絞り切った事柄を誉めもせず、あまつさえその暴言! 魚子の怒りのタックルを受けなさい!」

カカシはタックルを静かに受け止めた。

「……触手が滑ってるとか最悪だ!」

「もずく成分で美肌になってね!」

「食べ物で遊ばんでください」

「あくまでも成分を抽出しただけで、もずくは美味しく……かは不明ですが、いただきましたよ、あんたが」

「食ったの俺かよ。いつ口にしたか分からんレベルだから、まぁよしとします」

「スルースキルが高くなりましたね」

「えぇ、おかげさまで」

カカシは奥歯をギリギリ鳴らしながら微笑んだ。

「それより、その技術をなぜ魚子に使おうとするのかが理解できないんですが」

「役に立つことに使って何が楽しいんですか?」

「性根が腐っていることは理解できました」

「方向性が誰かの幸せではなく、己の楽しみに向いちゃっただけじゃないですか、やだー」

「最後の発言がキモい」

「……だがしかし!」

「いきなり怖ぇよ」

「恐怖するでもなく、嫌悪するでもなく、ただ一言『カワイイ』と若者に言われてションボリした気持ち、わかりますよね!」

「クエスチョンマークが抜けてますよ」

「問う気がないからです」

「理解者である前提で話を進めんでください。っつーか俺を巻き込むなと何度言ったら分かるんですか」

「分からないから繰り返すんです!」

「アホの子か!」

「わざとですけどね!」

「知ってたよ!」

「かまって欲しい……と言ってあげるので歓喜してください」

「今の台詞で歓喜できる愚か者を見てみたいです」

「鏡をどうぞ」

「あんたを映せばいいんですね」

「男前を映してどうするんですか」

「図々しさ鰻登りですよ」

「鰻で思い出しました。魚子のメンテをしなければ」

「メンテと言う名の改造せんでくださいよ」

イルカが動きを止め、驚いた顔でカカシを見る。

「あなたは…やはり俺の一番の理解者でした! 素晴らしい! ともに魚子を最終形態へと進化させましょう!」

「行動は理解してるけど仲間にせんでください。って、もずくと挽き肉渡さないで。ってか、これで何させるつもりですか。夕飯!?」

その夜、一晩かけて魚子の改造が行われたそうな。

カカシが途中で放り出さなかったのは、知的好奇心に負けたのか、はたまた魚子に魅了されたのか。 それは当人のみぞ知る。


2013.12.2

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