におい

「カカシ先生、運がよくなる方法知ってます?」

「運に頼るとかクソですね。実力で勝負なさい」

イルカはとりあえずカカシの顔面目掛けて雑巾を投げつけたが、カカシはそれをアッサリ受けとめる。

「……その雑巾、なんでか物凄く臭いんです」

「ギャー! なんか牛乳の危険な臭いが!」

「手を洗っても臭いが落ちなくて」

「仲間を作ろうとせんでください」

カカシはとりあえず袋に雑巾を放り込み、固く口を結ぶ。

「あっすみませんが、俺がいま着用しているゴム手袋も一緒に捨ててください」

「すべて計画的じゃねぇか」

「忍ですから」

「もっと建設的なことに頭を使ってください」

「子どものイタズラが、妙に良い策に化けることもあるんですから、軽視すべきではありませんね」

「もっと違うシチュエーションだったなら、俺が頷くこともできたでしょうに」

「シチュエーションのせいで頷けない? なら無限の妄想力でシチュエーションを捏造すればいいじゃない!」

「頷きませんよ!?」

「柔軟な思考を持つべきだとお伝えしているんです」

「その点に関しては、毎日毎日ワケのわからん言動で人を弄する脳トレマシーンがあるんで大丈夫です」

「凄いですね、そのマシーン! 一家に一台あっても損しませんよ!」

「嫌味も通じねぇ!」

「もげろ」

「そこまで頑張ってスルーしたフリしたんなら、最後まで貫き通しなさいな」

「そんなことしたら、あんた『イルカ先生ってば、エンジェルスマイルの天然さんなんですからぁ』とか言い出すでしょう?」

「キモいな、そのはたけカカシ」

「同感です。それより運がよくなる方法……」

「俺と握手してから良いことがあった、という報告はチラホラ聞きますね」

「なん……だと?」

カカシが笑顔で右手を差し出している。

イルカはその臭い手を見つめながら奥歯をギリギリと鳴らし、嘘だと決めつけながらも、もしかしてという思いを捨てきれずにいた。

翌日、右手に臭気をまとった男がいつもと同じような一日を過ごし、「騙された」と呟いて悪鬼のような形相で職場を後にしたのだが、これはまた別のお話。


2013.10.4

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