オッサン
「俺、忍という字について、一晩考えたんですよ」 イルカが真面目な顔でそう言った。 「心の上に刃……悲しくも良くできてますよね」 しんみりした顔でカカシが頷く。 「そういや、そんな文字の組み合わせでしたね」 「すでに嫌な想像しかできない」 「まあまず刃という文字を見てください」 イルカは紙の上に筆を滑らせる。 「ちょっと失敗やらかした角刈りのオッサンです」 「分からんでもないのが嫌だ」 「お次に心。鼻のデカい初老のオッサンです」 「優しい顔をしていらっしゃる」 「ちなみに彼らは親子です。親の優しさの上に胡座をかいたヤンチャなオッサンが金の無心を繰り返す、そんな図式が成り立つのですよ!」 「それを一晩考えてたのが恐い」 「夜中のテンションって妙ですから」 「妙なのはテンションじゃなくて、あんたです」 「直球で失礼ですね」 「変化球にしたら、真意を汲み取ってくれないじゃないですか」 「人をアホの子みたいに言わんでください」 「……やだっ、この子気付いてない」 「気付いてますよ。あなたが俺の想像力に嫉妬していることくらい」 「幸せな捏造ですね」 「幸せなのが一番でしょ」 「周りから見れば可哀想な子ですが」 「周囲の認識に振り回されるなんて、とてもつまらないことですよ?」 「くっ、たまにマトモな発言をしよる」 「どうとでも操作できるんですから」 「一気に黒くなりやがった!」 「ハッ! 凡庸中忍凡庸中忍」 「大変ですね、キャラ立て」 「隠していたはずのイケメンキャラが、最近気を抜くとニョロリと漏れ出てこようとするもので、抑え込むのも一苦労ですよ」 「大変ですね、頭も」 「鎮まれ、俺のイケメンパワー!」 「人生楽しみすぎだろ」 ――やべぇ、ちょっと楽しそう。 しかしここで流されてはいけないと、カカシは踏みとどまった。 周りの人から「イルカ先生たちっていつも楽しそうね」と同類扱いされていることを、カカシはまだ知らない。 2013.6.11 |