共同開発
「ビビチョカブリカが食べたい」 イルカがポツリと呟いた。 「どこのどういった食べ物か見当もつかないんですが」 カカシのセリフにイルカがため息を吐く。 「俺もです」 「話を聞いた人に、詳しく訊いてきなさいな」 「無理……なんですよ」 イルカが俯く。心なしか声が震えていた。 「だって俺の未来の創作料理なんですから!」 「あぶねぇ、無駄に慰めかけた! っつーか、せめて料理考案してから食いたい発言してください」 「優しい感じの何かアレな食べ物ってところまでは決まってますよ」 「そうですか、じゃあ後は作るだけですね」 「ええ、大体の案としては、夢と希望を煮えたぎるお湯にぶちこめば完成、ですかね」 「まぁ美味しそう」 二人はにこやかだったが、目は笑っていなかった。 「イルカ先生、幻の食べ物のことはさておき、そろそろ夕飯を……」 「勝手に伝説の食べ物にしないでいただきたい」 「違う意味で全く同じ台詞を返したい」 「昨日、今日でビビチョガスの名を広めてきたんで、明日には伝説になってますよ」 「根っこの浅い伝説ですね。ってか名前が変わってますがな」 「色々な呼び名があった方が、それっぽい気がしまして」 「分かる気がするのが嫌だ」 イルカは頷き、そして真っ直ぐカカシの目を見て言った。 「というわけで、創作しますか」 「えっなに、この一緒に考えようか的な流れ」 「愚かな。むしろ全部考えろ的な流れではないですか!」 「早々に飽きやがったな、この人」 「アナタ、考える人。私、広める人」 「勝手に人を巻き込まんでいただきたい」 「あなたに選択肢があると思わないでくださいよ!?」 「あると思うのが普通だよ!?」 イルカは片目を閉じて指を振った。 「微妙に腹立つ絵面だな」 「上手くウインクできるように練習しましたんで」 「嫌がらせに対しては全力投球ですね」 「そこかしこに散りばめられた優しさに気付こうとしていないだけでは?」 「優しさどこー!?」 「はっはっはっ、探しても無駄だ!」 「茶番はさておき、伝説云々は置いておいて、創作料理を共同開発するのは悪くない案です」 「あらやだ、いつの間にか混ぜられた。まぁそこが落としどころですかね」 二人は、色々ぶち込んだ優しい感じのモヤモヤする味をした食べ物を完成させ、微妙な顔でそれを夕飯にしたそうな。 一週間後、ビビチョ(以下略)が里中の噂となり、それに乗っかった定食屋の店主がひと稼ぎしたそうな。 「俺が考案したのに」 「名前だけな」 「ガセ伝説を広めましたよ?」 「予想外に広まって怖かった」 「そうそう、店主に無料券をしこたまもらいました」 「共同開発者をチェンジしてた!?」 真実は闇の中。 2013.3.13 |