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「 ゴキブリは、なぜあんなにも嫌われているんでしょうか」 イルカが真面目な顔で質問するので、カカシも真面目にこたえてみる。 「汚いイメージと、飛ぶのと、あと触角……ですかねぇ」 「ツノをつければいいじゃない」 「カブトムシなめんなよ」 「生命力がありすぎて、可愛いげがないと思われているんでしょうか」 「家の中を我が物顔で走る黒い生き物の命が儚ければ、みんな喜ぶと思いますけど」 「命は平等なのに!?」 「あっ……蚊がいますね」 イルカはすかさず羽音の主を叩き、手を洗いに行った。 「我が領域内で許可を得ずに飛び回るとは、愚かな蚊もいたものです」 そう言いながら、不快な顔でイルカが戻ってくる。 「許可を求める蚊とか、存在するなら見てみてぇですよ」 「夢の中に現れて、許可を求めてきた蚊ならいました」 「あんたの精神状態に不安を抱きました」 「却下しましたが」 「ですよね」 「今しがた葬られた蚊ェ門が件の蚊です」 「バカな!」 「バカだ!」 「……のってやるんじゃなかったと、いま激しく後悔してます」 「後悔は不毛ですんで、反省するようにしてください」 「元凶が上から目線で何か言ってやがりますね。っつーかゴキの話はどこいった」 「終わりました」 「あっそう」 数日後、カカシはイルカ宅でゴキブリを見た。 オモチャのツノがついていた。 「また会おう!」 そう言いながら、イルカは窓からゴキブリを逃がした。 「ちょっ、新種のカブトムシだと思って、子どもが捕まえたらどうするんですか!?」 「愉快!」 「ひどいイタズラを見た」 「イタズラとは失礼な。奴に生存率が上がるかもしれない擬態を施してあげたんですよ。むしろ優しさです」 「なんでさっきから発言がゴキ寄りなの!?」 「もしかすると人間になって恩返しにくるかもしれないじゃないですか。黒髪触角を希望します」 「言い訳が気持ち悪いことこの上ない。どうせなら蝶とかになさいな」 「蝶は不気味なんでちょっと……」 「あんたの感覚が分からん」 とりあえず、どんな姿にせよ戻ってくるなよ。 カカシは心の中で別れを告げながら、まず台所の掃除を始めたのだった。 201210.23 |