オバケ
「オバケって怖いですよね」 イルカが真面目な顔で言った。 「あれ、なにこの半端ない違和感。っつーか怖くねぇですよ」 「カカシ先生、今は夏ですよ? 夏にオバケを怖がらなくて、いつ怖がるんですか!?」 「いつもなにも、一般的には年がら年中怖いもんじゃないの!?」 「冬にオバケを怖がっても寒いだけじゃないですか」 「あんた、オバケを納涼グッズかなんかと勘違いしてるでしょ。というか、すでにその思考の時点でビビってないじゃないですか。暑いなら冷房入れればいいでしょうに」 「温暖化が進むじゃありませんか」 「思ったよりマトモな考えをお持ちだったんですね」 「俺の懐との寒暖差も広がるし」 「マイナス方面での期待は裏切って欲しかったです」 「たんにクーラーがあまり好きではないだけなんですが」 「あっそう」 イルカが目を細める。 「カカシ先生、返事が適当すぎやしませんか?」 「今の会話内容で情熱的に返事しろとか、無茶振りやめて」 「自らの手で面白おかしくしてこその会話でしょう!?」 「あんたの中で日常会話の定義が大変なことになってますね」 「他人のあげ足を取って、己が笑いにすり変えるのを、笑いとは認めません!」 「なんで笑いに対する真面目な話が始まってんの?」 「でも、そのあげ足取りの中に愛があるならば別です。そう、他者を輝かせようとする愛ゆえの行動ならばっ!」 「バカじゃなかろうか」 イルカが右手で畳をバンと叩く。次の瞬間、カカシの両腿の間から何かが飛び出し、結果、カカシへの鼻フックが華麗に決まった。 「あなたはなぜ、毎回会話のキャッチボール3回目で手を抜くのか!」 「地味に精神的ダメージでかいわ!」 鼻にかかったシリコンのフックを外しながらカカシが怒鳴ると、イルカは悲しそうな顔をした。 「もう……キャッチボールもできないんですね」 「物理的なキャッチボールなら大歓迎ですよ」 「すぐに力でねじ伏せようとするのは、カカシ先生の悪い癖です」 「鼻フック食らわされたんですけど!?」 「これは、いついかなる時も注意を怠ってはいけないという、忍たちの悲しいお話……」 「〆にかかるな」 「もうすぐカレーができあがるんで、勘弁してください」 「今日は肉じゃがだよ」 「水とカレー粉をぶち込めばいいじゃないですか!」 「出来上がった肉じゃがを変身させる意味が分からん!」 「仕方ないので肉じゃがを皿に盛ってきますんで、待っててください」 「はい。……あれ?」 こうして二人は普通に夕飯を食べて床についた。 どこか釈然としなかったが、まぁいいかと、カカシは眠るために目を閉じたのだった。 2012.08.16 |