まろやか

イルカがとても落ち込んでいたので、カカシは「どうしたんですか?」と、雑誌を読みつつ煎餅片手に訊いた。

「誠意が込もってないので、今一度チャンスをあげます」

「訊いてもらえただけでありがたいと、感謝すらして欲しいんですけど」

「カカシ先生って、上から目線ですよね」

「自分のセリフも振り返ってみましょうか」

「春風のように爽やかな声を持つ偉そうな中忍がいました」

「ビックリするほど図々しいな」

「後半に客観的事実を加えることで、全体的にまろやかに仕上げてみました」

「意味が分かりません」

「精進してください」

「謎のダメ出しを食らったので、いっそ全てを謎のままにしておきましょうか」

「いやぁ、バレンタインデーをすっかり忘れてまして」

「無視されそうだからって、いきなり本題に入りやがりましたね。さておき、イルカ先生からチョコがもらえなかったのは、忘れてたからですか」

「なんで俺から貰える気でいたんですか!?」

イルカの顔が恐怖に歪む。

「っつーか、くれてもよくない!?」

「カカシ先生がくれればよかったんじゃない!?」

「ほら、俺、貰うことが多いんで、買いに行って女の子とバッタリ会ったら気まずいじゃないですか」

「もらった分では物足りない食いしん坊上忍のフリくらいしなさいな」

「好物だと思われたら大変じゃないですか」

「じゃあ、チョコはいらん、肉をくれって言いましょうよ」

「胃がもたれるのでやめましょう」

「モテる男の悩みが、ちょっと分かった気がします。滅びろ」

「理解する気ゼロだよ!?」

イルカは無視して、卓袱台の上に手をついて項垂れる。

「モテない同僚の机にこっそりチョコを置いて、ドギマギする奴の様子をニヤニヤしながら見る計画が……一年間楽しみにしてたのに」

「鬼か貴様」

「モテない男の気持ちを分かったフリして哀れむ上忍が憎い!」

「純粋に、あんたと関わってる同僚に同情してるだけです。っつーか、そんなことで落ち込んでたんですか」

「……違いますよ? もっと崇高な悩みの末ですよ? 聞きます?」

「即席のくだらない話を聞きたくないので、結構です」

聞いてあげた俺って優しいな、と思いつつ、カカシは煎餅を食べ始めたそうな。


2012.3.1

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