時計
「時間を潰すのが苦手な人っていますよね」 時計を見ながらイルカが言う。 「あなたでないことは確かですけどね」 カカシはそう言うと、ミカンの半分を口に突っ込んだ。 「なにを言ってるんですか。俺なんてまだまだですよ」 「明らかに空き時間を有効活用してる側の発言じゃねぇか。時間潰すのが苦手な人間をなめないで下さい」 「たとえば?」 「五分の空き時間があるとして、別段なにをすることもなく、時計を見続けるしかない人もいるんです」 「短針と長針で、どんな妄想しているのやら」 「誰もがあんたと同じ思考だと思うなよ」 「俺の想像を越える妄想をしている……そう仰りたいんですね?」 「仰りたくねぇですよ。そんな上級者イヤだ」 「イヤよイヤよも好きのうちとは、よく言ったものです」 「えぇ、今の会話にはまったく関係ないですけどね」 イルカが目を丸くした。 「カカシ先生、もしかして会話からキーワードを取り出すのが苦手な方でしたか?」 「どっちが苦手かなぁ?」 「まぁ会話を増やせば、次第に慣れていきますよ」 「まるで俺が友人いない可哀想な子みたいな言い回しやめて。っつーかガンガン喋ってるだろうが」 「カカシ先生、友人いたんですか!?」 「ストレートに失礼だな、おい」 「ミミズの孫衛門が聞いたら、喜びますよ」 「俺の友人は人間です」 「ミミズ差別ですか。あなたがそんな些末なことに拘る人だとは思いませんでした」 「意思疏通できなきゃ、友人もくそもないと思いますが」 「昔、ミミズバーガーって都市伝説ありましたよね」 「あんた本当はミミズ嫌いだろ」 「土を肥えさせる才能に嫉妬していることは否定しません」 「すみません、好きなんですね、ごめんなさい」 ヤカンがピーと鳴った。 イルカは無言で立ち去り、そのまま夕飯を作り始める。 湯が沸くまでの暇潰しの道具にされたとカカシが気付いたのは、それから一分後のことだった。 2012.2.14 |