初詣
カカシとイルカは、少し時期を外して初詣にきた。 長い階段をのぼり、ようやく辿り着いた二人は、揃って今きた道を戻ろうとする。 「ちょっとお待ちください。せっかく来たんですから、ゆっくりしていってくだされ」 菷を手にした老女に呼び止められた。 「せっかくきたのに、戻る決心をした気持ちを汲んでください」 振り向かずにカカシが言う。 「よく分かりませんが、なにかありましたかな?」 「アイドル風に改造された巫女服、菷にまたがった女性、この二つが主な理由です」 イルカも振り向かずに答える。 「顔も見せずに会話をするとは……と昨今の若者批判をしたいところですが、お二方、なかなかどうしていい漢の背中をしておりますな。ギュッとしたくなりますぞ」 二人はほぼ同時に振り向き「すみません」と非礼を詫びた。 「イルカ先生、この類いの惨事は大好物じゃなかったんですか?」 肘で小突きながら、小声でカカシが問う。 「芸能の類の見た目が派手なのは、むしろ苦手ですよ」 「見た目が地味なら受け入れたと」 「ええ、残念でなりません」 「本当に残念な人ですね、あなた」 老女が咳払いをひとつ。 「内緒話とは感心しない……と言いたいところですが、ミステリアスで悪くありませんぞ、お二方」 「むしろ嫌われるにはどうしたらいいですか?」 真顔でカカシが訊ねる。 「態度が冷たいのは、興味があることの裏返しですな」 「どこまで幸せな思考してんですか。って、あれ? こういう人、俺知ってるよ!?」 「そう、俺です!」 「やかましい、少しは直せ」 やりとりを見ていた老女が笑う。 「はたけカカシ殿、噂には聞いておりましたが、翻弄されっぱなしですな」 「名前を知られていたとは、有名になるのも考えものですね。とりあえず記憶から俺の名前を抹消してください」 「まぁ、噂を流しているのは俺なんですが」 「なんだこのウゼェ布陣は!」 「ウザいと言われてしまいましたよ、ヨネさん」 「ショックでございますな、イルカ殿」 「っつーか、あんたら知り合いかよ!」 二人は顔を見合わせる。 「違うとは一言も」 「言ってませんぞ」 「最初、イルカ先生は確実にこっちサイドにいましたよね!?」 「……ヨネさん、服の改造はよくないと申し上げたじゃないですか。シンプルなのが一番輝くんですよ、巫女というのは」 「だがしかし、挑戦する心を忘れるのもいかがかと」 「なるほど、一理ありますね」 イルカは満足そうに頷いた。 「というわけで、来週はパンク巫女週間となりますので、楽しみにしていてくだされ」 ──ヤバイ、ちょっと見たいかも。 カカシは自分の中に生まれた好奇心に必死であらがったそうだが、それはまた別のお話。 2012.1.19 |