心配

「ちょっと危険な任務につくんで」

そう言ってカカシが里を出たのは半月前の話。

イルカは心配そうに「ご武運を……毎日祈ってます」と言っていた。

さぞかし心配してるだろうと思い、イルカ宅の扉を開けると――家主が本を読んで爆笑していた。

「ちょっと待たんかい!」

イルカがゆっくりと振り向く。

「帰ってきたら『ただいま』でしょうが。まったくこの上忍は」

「それならあんたは『おかえりなさい』だよ!」

「あらいやだ、自分の非を棚にあげて攻撃してくるだなんて」

「どこの姐さんですか、あんた」

「海野家の姐さんです」

「さらりと言いやがった」

「それはさておき、お帰りなさい」

「あっ、ただいま戻りました」

妙な沈黙が訪れる。

「ではなく、他に言うことあるでしょうが」

カカシのセリフにイルカが手を鳴らした。

「タンスの中にある忌まわしく禍々しい像を粗大ゴミでお願いします」

「お願いされてたまるか! っつーかそんな不気味なもんをタンスにしまうな」

「ある日突然生えてきたんだから、俺のせいじゃありませんよ」

「えっ、なにそれ怖い。とでも言うと思いましたか?」

「純粋さが失われると、少年のようなオッサンから、ただのオッサンに降格しちゃいますよ」

「むしろ少年のようなオッサンの方が怖いんですが」

「俺が怖いと」

「間違っちゃいない」

再び妙な沈黙が訪れる。

「ではなく」

「さっきから何ですか、言いたいことがあるなら口にしてください。言葉とは進化の末に得た人間のすばらしき発明ですよ。いやまて、言葉はむしろ衰退の証ではなかろうか。真に進化を遂げたならば言葉というツールに頼らず、テレパシーのようなもので伝達ができるのでは……!?」

「おいてけぼりにもほどがある!」

「で、何でしょうか」

「いや、たんに心配してたってセリフが欲しかっただけなんですけど」

「……心配してたんですか、俺!」

「俺がききてぇよ! っつーか、してなかったのかよ!」

イルカがふっと笑う。

「冗談ですよ。カカシ先生が無事だと受付で知ったから、いつも通りに出迎えようと思っただけです」

「行くときにはなかった35巻セットの最終巻を手にしてるのは気のせいでしょうか」

「ええ、気のせいです。ほら見てください。心配のあまり眠れず、その結果できてしまった目の下のクマを」

「昨日何時まで本読んでました?」

「おっと、誘導尋問には引っ掛かりませんからね」

「むしろ引っ掛かった後ですよ」

「カカシ先生を信じてたから、普段通りの生活を送ってただけなのに」

「口開く度に言い訳の内容変わってるじゃねぇですか。せめて一個を貫き通せよ」

「じゃあ今言ったやつで!」

「じゃあとか言ってる時点で嘘じゃねぇか」

イルカがニコリと笑う。

「帰ってきたって実感わくでしょ?」

「いい話風に終わらせる汚い作戦ですね」

「今日のあなたの夕飯は野草に決定しました」

「わぁい、やっぱり里はいいなぁ、帰ってくると落ち着きますね」

屈したカカシが、後日紅からイルカが心配していたという話を聞くのだが、それはまた別のお話。


2011.11.22

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