幸運グッズ

イルカ宅に行くと、先客がいた。

素肌に鋲付の革ジャンをはおったスキンヘッドの筋肉質な男は、やってきたカカシを見て一礼する。

落ち着いた彼とは対称的に、イルカはちゃぶ台の上のパンフレットを慌てて隠していた。

「今日は遅いって言ってたじゃないですか」

「予定は未定ですから……って、こちらさんは?」

「間男さんです」

「お客さん、この男を気の済むまで殴っていいですよ」

「いえいえ、殴るなんてとんでもない。いつも笑顔と真心を忘れずに、が信条ですので」

「見かけによらず真摯な人なのか、人生諦めちゃった残念な人なのか判断難しいんですけど、ほんとにどちらさん?」

「えっカカシ先生、本当に分からないんですか?」

言われ、カカシが首を捻る。

「ほら、頬の骨格を削って、小鼻は小さく、体の筋肉を全体的に4割削減してみてくださいよ」

カカシは男を睨み付けながら必死に想像した。

「そうするとシカマルにそっくりなんです!」

「だからどうした!」

「冗談はさておき、本当に知りません?」

「えっと……申し訳ないです」

「まぁ初対面ですし」

「そんなこったろうとは思ってましたよ」

「もしかするとシカマルかも!?」

「シカマルで遊ぶの、やめてあげてください」

「シカマルには優しいんですね」

イルカは面白くなさそうに頬を膨らませた。

「シカマル君とやらに嫉妬する海野様。突如現れた銀髪の男性は優しく肩に手を置き、『ごめん』そう言って微笑んだのです……」

「あんたも変なナレーション入れんでください」

「かつて恋愛小説家を目指しておりました」

「心底どうでもいい個人情報は置いといて、あなたどちらさん?」

「カカシ先生、まだ諦めてなかったんですか」

「なぜ諦めねばならないのか」

「そうですよね! 諦めなければ、わたくしも恋愛小説家になれますよね!」

「この空間、心底うぜぇ!!」

カカシは状況を打破すべく、イルカの隠したパンフレットを引っ張り出す。

サプリメントが載っていた。

「あぁ、秘密にしてたのに!」

「銀髪の男性は少々強引なキャラ設定でいくか」

「推定販売員の方をまず沈黙させてぇな、おい…」

「お客様不快センサーに反応あり! 申し訳ございませんでした」

「今ようやく反応したのかよ。仕事してねぇセンサーだな」

「あくまでも買うのは俺ですからね。カカシ先生は所詮オプション……刺身のツマレベルだから反応しなかったとしても不思議はありません」

「で、買うんですか?」

「ええ、ここの薬すごいんですよ。飲むだけで筋肉つくんです」

カカシが胡散臭いと言わんばかりの表情になる。

その反応が予想済みだったのだろう。男は慌てた風もなく、ちゃぶ台の上に写真を置く。

「わたくしも、かつては貧弱なボウヤと呼ばれておりました」

覗き込んだ二人は、声を揃えて呟いた。

「……シカマルですね」

「三ヵ月前のわたくしです」

「骨格まで変わってるとか怪しすぎるだろ、その薬」

「カカシ先生、俺は『盗撮物をウッカリ出しちゃったけど、仕方がないので突き進むことにした』に5票です」

「いつから分裂したんですか、あんた」

「気に入らないなら1票あげますから、好きなところに投票すればいいじゃないですか」

「これほど意味のない1票も珍しいですね」

「大盤振る舞いです」

「会話しろよ」

「あの、海野様……」

申し訳なさそうに男が口をはさむ。

「じゃあ1瓶購入で」

「なんでお買い上げしちゃう気なんですか、あんた!」

こうしてイルカは謎のサプリメントを手に入れた。


数日後、カカシがイルカ宅に行くと、家主がいきなり叫んだ。

「トリック オア トリート!」

カカシがごそごそと服のポケットをさぐると、飴をひとつ発見したのでイルカに渡した。

イルカの顔が絶望したそれに変わる。

「イタズラできなかったぁ!」

手には例の瓶が握られている。

「イタズラで肉体改造されてたまるかぁ!」

カカシは叫びながら、明日から幸運グッズとして飴を持ち歩こうか、などと考えていたそうな。


2011.10.19

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