眠い人
「最近、仕事中に眠くて」 夕食後、イルカは欠伸をしながら不明瞭な声で言った。 「仕事中とか関係なく、タルんでるじゃありませんか」 「眠い=タルんでるという判断は早急すぎますよ、カカシ先生。もしかすると新たな能力に目覚める前触れやもしれません」 「前向きすぎて怖い」 「俺は後ろを振り返らないタイプです」 「後悔はしなくていいから、反省はしてください」 「反省とは、人に言われてするものではありませんよ」 「反省する気がないことがよく分かりました」 イルカが怪訝な顔をする。 「そもそも、なにか反省するようなこと、ありましたっけ?」 「仕事中にタルんでたことを、あっさり忘れてやがりますね」 イルカは静かに、そしてゆっくりと首を横に振った。 「ある特定のことに意欲が出ない場合、タルんでいるのではなく、心が疲れている可能性も視野に入れねばなりませんよ」 「いつの間にか、意欲が出ないなんてオブラートに包まれてますけど、中身はたんに眠いだけですよね」 「否定はしません」 「少しは抗え」 「抗えば、さらなる仕打ちが俺を待ち受けるでしょう。ならば耐えるのも一つの選択です」 「オブラートに包まずにどうぞ」 「言い訳考えるのも面倒くさい」 欠伸を噛み殺しながらイルカが言った。 「……まぁ、本当に眠そうですし、今日はもう休めばいいと思いますよ」 「すみません、後片付けよろしくお願いします」 イルカが頭を下げて寝室に去る。 五分後、寝室から小さな笑い声が聞こえてきた。 ──俺に見えない人と談笑してたら、どうしようか。 カカシはちょっとビビりながら、扉を少し開けて覗き込む。 大人買いしたであろう並べられた本を読みながら、イルカが笑っていた。本が鈍器であることをイルカが知ったのは、それから数分後のことだったそうな。 2011.8.02 |