おかっぱ頭
イルカとカカシが食後のお茶を飲んでいた時のことである。 イルカが何かを思い出したらしく、「そうそう」と言って話し始めた。 「一週間前に押入れに市松人形があることに気付きまして」 「忘れてたんですか?」 「三年前に知り合いが廃棄するってんで、譲り受けてそのままになっちゃってました」 物忘れが激しくなったと苦笑いしながら頬を掻く。 「それでですね、三日前に再度見たら、髪の毛がすげぇ短くなってたんです」 「本当にあった怖い話ですか!?」 「いえいえ、かすれてて読めなかったんですが、漢字だらけの長方形の紙で丁寧に木箱をとめてあったんで、由緒正しい人形っぽいです。そうだとすると、人の毛が使われていても不思議じゃありません。湿度のせいで伸縮しちゃいますからねぇ、人の髪って」 「由緒ある呪われた人形じゃねぇか」 「持ってても仕方ないんで、近所の子どもにプレゼントしようかなぁ」 「サプライズすぎて、子ども泣きますよ。下手すりゃ親も泣くんじゃありませんかね」 「そんなに喜ばれますか!」 「どうしてそうなる」 「物を貰う、泣く、というキーワードから導き出した結論です」 「そこに『呪い』というワードを付け加えて再チャレンジしてください」 イルカは目を閉じ、考え始める。どれほどそうしていただろう。イルカは目を開け、神妙な顔で言った。 「立派なゴーストハンターになりましたが、グールに負けました」 「イバラの道を歩んだんですね、ご苦労様です、さようなら」 「返答が適当すぎやしませんか?」 「真面目に返せとか、無茶振りやめて」 「ともかく、件の人形です」 イルカはちゃぶ台の上に箱を乗せた。 大きさは二十五センチくらいで、お札らしきものが丁寧に剥がされている。 イルカは躊躇なく蓋を取った。 「普通の人形でしょう?」 取り出してカカシに見せる。 一見するとおかっぱ頭をした普通の人形だが、警戒するカカシ。 「……?」 イルカが怪訝な顔で人形の背中を触り、ほどなくしてポチリと音がする。 ──と、人形の髪が足まで伸びた。 「ギャー!」 カカシの声がこだました。 イルカは目を輝かせながら人形を見つめている。 「ちょっ、キモいんですけどっ!」 「思い出しました。これが面白くて引き取ったんですよ。別に由緒正しくはないんですがね。知人の作ですし」 「ねぇだろ、そのギミックは。っつーか、考え付いても普通作らないだろ。頭皮から何からの毛穴が一気に広がったわ!」 「詰まらないように、早く毛穴を閉じた方がいいですよ。黒ずむと大変です」 「やかましい!」 「どうしましょう、子どもにあげるのが惜しくなってきちゃいましたよ」 「あげたら、子どもがひきつけ起こすわ!」 「この仕掛けを目にして手放したくなくなったからって、そんなに必死にならなくて大丈夫ですよ」 ──どうしてそうなった!? という言葉をカカシは飲み込んだ。 他に犠牲者を出してはいけない。 ほんの少しずつ髪が短くなっていく人形を見ながら、もっと禍々しい箱に封印して、うっかり誰かが開けてしまわぬようにせねば、とカカシは強く思ったのだった。 2011.7.12 |