オッサン


「カカシ先生、昨今、普通のオッサンになぜか人気が集まっているようですよ」

雑誌を見ながらイルカが言った。

「イルカ先生、女性の『おじさんってなんか可愛いじゃん?』なんて、キャラクター化現象に騙されちゃいけませんよ。真性はごく少数なんですから」

イルカが眉間にシワを寄せ、目を見開く。

「思った以上に『じゃん?』とか言うカカシ先生がキモかったです」

「ピンポイントで食いつかんでください、そんなところに」

「他に食いつくと、灯りかけた希望の光が消えてしまいそうだったんで」

「現実見ろよ」

「雑誌の記事はフィクションでしょうか?」

「あんた、踊らされる人の典型ですね」

「失礼な。真相を確かめるために、俺は情報収集までしてきたんですよ」

イルカはキーホルダーを誇らしげに見せた。

小指ほどのオッサンが可愛らしく手を合わせ、小首を傾げて謝っている。

「300円でした」

「オッサンがオッサンのガシャポンせんでください。っつーか、キャラクター化の象徴じゃねぇか」

「大人気」

「俺には購入者女子の嘲りが見えますね」

「嘲りだけで300円も出さないと思います」

「一応、お金の価値は分かっていたんですね」

「つまり、300円を出してでも手に入れたい物なんですよ!」

「物の価値は分かってなかった!」

「隣にはリアルなカエルのガシャポンが!」

ぬらりとした黒と黄のストライプのカエルを5匹並べ、イルカが悲しげに首を振る。

「あるならば、やってしまうのが人間ってもんですよね」

「このシリーズはねぇよ。っつーか、かぶりすぎでしょ」

「カカシ先生もそう思います? 8種類あるそうなんですけど、これだけ連続でシークレットが出まくると、さすがにコンプリできる気がしなくて」

「なにそれ怖い」

「来月の市松人形シリーズに期待しますか」

──イルカ先生以外にやってる奴、いるのかな……。

木の葉のガシャポンの需要と供給を考え、カカシは不安を覚えたそうな。

景品を持ち込まれ、飾られ、近所からガシャポン御殿と呼ばれていることを、家主のカカシはまだ知らない。


2011.6.17

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