関係


イルカ宅に行くと、家主が紙を見つめて唸っていたのでカカシは声をかけてみた。

「奇妙なデザイン画は捨てた方がいいですよ」

「素晴らしいデザインを捻出していたわけではなくて、己の人間関係図を書いていました」

「普通にキモいな、おい」

「自分の立ち位置を正確に把握すれば、うまく立ち回れるようになるかも、と思いまして」

カカシが横から紙を覗く。

書かれているのはイルカ、カカシ、アスマ、そして同僚だろう男性3名と八百屋のおばちゃんだった。

「寂しい人間図を見て、思わず涙が出そうになりました。立ち位置確認する前に、人間関係の構築に力を注ぐべきかと」

「シンプルな方がいいじゃないですか。別に知り合いが少ないわけじゃないんですよ? 主要人物を書いてみただけですよ?」

「八百屋のおばちゃんの存在感がハンパないですね。っつーかおばちゃん書く前にナルト入れてやれよ」

「殿堂入りなので除外しました」

「もはや相関図でもなんでもないですね」

イルカは無視して、カカシの名前から自分へ矢印を引っ張り、その横に『リスペクト』と書く。

「してねえ!」

「まさか……そんなっ!」

「どこをどう見て、そんな結果になったのかを知りたいんですが」

「カカシ先生、このあいだ紅先生と飲みに行ってましたよね。その時に『イルカ先生リスペクトゥ!』と叫んでたとお聞きしましたよ」

「やべぇ、イルカ先生の捏造か、紅の嫌がらせか判断つかねぇ!」

「その両方だとお伝えしておきます」

「リスペクト消してください、今すぐ」

イルカは文句を言いながらも墨で塗り潰し、改めて『偶像崇拝』と書いた。

カカシは筆を奪い取り、それを無言で塗り潰す。それを見て、イルカがため息を吐いた。

「いったいなにが不満なんですか?」

「わかってないとか、どんだけ幸せな脳みそしてんですか」

「パカリと開けてお見せできないのが残念……いや、もしかすると頑張ればできるかも!?」

「今世紀最大の無駄なチャレンジですね」

「ここは素で返しますが、俺以上の愚かなチャレンジャーなんて、日々量産されてると言っても過言じゃないと思うんですよ」

「いつも素で返せよ」

「後半部分をまるっと無視するなんて、それでも俺の信徒ですか?」

「嫌な設定が再び生えてきた!」

「ちなみにアスマ先生から俺への感情は『困った子』だと思います」

「あ……うん、なんでそこだけ冷静に見れてんのかなぁ」

「一人くらいまともな関係図を書いとかなきゃ、他が際立たないでしょ?」

「他は大嘘確定じゃねぇか」

「無限の想像力に願望がプラスされただけですよ」

「相関図なんてものじゃなかった!」

「ええ、それがなにか?」

「反論がないとでも?」

イルカはコクリと頷く。

カカシも笑顔で頷く。

「俺の10分を返しやがれ!」

墨汁をまず退避させてから攻撃を開始するカカシ。

その隙にクッションという名の盾を手に入れたイルカ。

二人の戦いはまだ始まったばかりである。


2011.5.28

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