ハンサム


「カカシ先生、俺、男前になりましたか?」

茶を飲みながらイルカがそんなことを口にしたので、カカシは件の人物の体温を手で計ってみた。

熱はない。

あってくれた方が納得もいったのにとカカシは思った。

「それは……顔の話……でしょうか?」

「ええ、失礼きわまりない間をもうけていただき、ありがとうございます」

「いやっ、別に不細工とかではないんですが、ハンサムかと問われると、よく分からんですよ」

「二日ほど努力して顔のマッサージしてみたんですがねぇ。そういえばハンサムって言葉、すっかり廃れましたよね」

「ちっさい努力ですね。今ならイケメン? 語源を知らないハンサムより、しっくりくるような、そうじゃないような」

「ハンサムの語源は紀元前5世紀まで遡ります。雄々しい部族がおりまして、その長となる者は、文武どころか容姿までも求められたとのこと。その部族の名がバルサム。それが変化してハンサムとなったそうですよ」

「豆知識ですね」

「よそで披露する際は、絶対俺の名を出さないでください」

「堂々とした嘘を聞かされてた!」

「嘘と創作を一緒にしないで下さいよ」

「違いを教えていただきたいんですけど」

「嘘だと人聞きが悪い」

「やはり中身に違いはなかったか」

神妙なツラで頷くイルカ。

「なんだろう、その表情に腹が立つんですけど」

「人間としての器が小さいのでは?」

「普通に失礼きわまりねぇ!」

「そういえば、知り合いの女性にカカシ先生への質問と同じものをぶつけてみたんですよ」

「女性に訊くとか、勇気のステータス高いな、おい」

「その女性は、俺をじっと見たあとにポツリと言いました。来世に期待――と」

「センスのいい女性ですね」

「紅先生ですけどね」

「失礼な女ですよ、まったく」

「相手を知って態度を変えるのは、いかがなものかと」

「たとえば俺とアスマがすこぶる失礼な発言をしたら、イルカ先生はどうします?」

「二人まとめて、自ら長期任務を志願したくなるほどの晒し者にします。職場ではなく、ご近所さんから攻めていく方向で」

「比較する相手を間違えた! っつーか具体的だな、おい」

「俺は誰であろうと手を抜きません」

「無駄にそこだけ男前ですね」

「来るか、モテ期!?」

「モテたいんですか?」

「数日前、八百屋で『あら兄ちゃん、男前だね』とオマケされてる人を見たんです。ロックオンしていた瑞々しい茄子が、どこの馬の骨とも分からぬカカシ先生に横取りされた気持ち、あなたに分かりますか!?」

「よく分からんところで、よく分からん恨みを買っていた! っつーか一緒においしくいただいたじゃないですか」

「自らの手で勝ち取る喜びを奪われた俺が、そんな素振りを見せずに笑っていた。心では血涙を流し、あなたより男前になると誓った。そう……すべては美しい茄子のために!」

「夕飯はもやし炒めでいいですか?」

「ご飯はかためでお願いします」

なぜか夕飯は雑炊だったらしいが、それはまた別のお話。


2011.05.10

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