オレモン
カカシがイルカ宅に行くと、家主が紙粘土でよく分からない物を作っていた。 蛇のような生き物が10匹ほど天を目指して絡み合い、しかしその表面は猛禽類を思わせる羽毛で覆われており、牙をむく口元は獰猛さを見事に表現している。 「無駄にクオリティ高いですね。っつーか何それ」 「ケッツァルコアトーアーラトテップ。オリジナルモンスターです。略してオリモン。これは流行る!」 「堂々としたパクリを見た気がします」 「じゃあ、ケッツァルコアトゥチョトゥチョ。オレのモンスター、略してオレモン」 「改善された形跡がないんですけど。というか、それゴロが悪すぎて子どもウケしませんよ。幼い子も呼びやすい名称にしないと」 「珍しくまっとうな意見ですね、ありがとうございます」 「まるで俺が普段ワケの分からない発言ばかりしているような言い回し、やめていただけません?」 「たまにズレてるかなぁと」 「主軸がまずズレてることを考慮してなかった俺のミスですね。申し訳ない……とでも言うと思いましたか? どっちもズレてたら会話にならねぇですよ」 「かつて人は明確な言語を持っていませんでした」 「どこまで遡る気ですか、あんた」 「しかし確かに人は通じ合っていた! つまり言葉なんて便利な道具のひとつに過ぎず、なければないで、どうにかなるんじゃないかと。試しに……イーイー!」 「フゴーフゴー!」 「イイイ!?」 「フォオーン!」 イルカは怪訝な顔で訊ねる。 「……楽しいですか?」 「俺が聞きてぇよ」 「何言ってるか分からないし」 「俺が分かっているなどと思わないでいただきたい」 「分かろうとする努力を怠ってはいけないと、何度申し上げたら分かってくれるんですか?」 「この人にだけは言われたくない代表が何をおっしゃいますやら」 「あっ俺、治外法権なんで」 「意味わかんねぇですよ」 イルカは静かに自分の作品をカカシの方へと押しやった。 「これを崇めよ! さすれば天からの啓示により、閃きレベルが1アップ! 今ならお米もついてきます」 「理解したくない領域に、なにゆえ自ら飛び込まねばならんのですか」 「そうすると、カカシ先生の夕飯がカレーライスからカレーになっちゃうんですけど」 「通販っぽく始まり、嫌がらせに終わるとは!」 「でしたら通販風に、もう一個付けましょうか?」 イルカはタンスから同じような作品を取り出す。 「なぜ二個も作ってんですか、あんた」 「ちなみに本日作ったのがメスです。口元がセクシーなんですよ」 「玄関前に魔除けで二体置いときますか?」 「明日さっそく、カカシ先生ん家の玄関に置いてきますね」 「俺ん家の玄関、いまバニーガールならぬカエルガールの等身大ポップが『おいでませ』って微笑んでるんで、それよりマシかな」 「釣られて入ると忍犬に襲われるトラップ……仕掛けた人はプロですね」 「目の前にプロがいますがね」 「あなたの前にいるのはハラペコ中年です」 「奇遇ですね、俺もです」 カカシは無事にカレーライスを食べることができたそうな。 カエルガールは罠どころか、ご近所の子どもの落書きボードと化してしまっていたようだが、それはまた別のお話。 2011.4.25 |