ホラー

イルカ宅に行くと、家主が湯飲みを前に、一人でクスクス笑っていた。

「ホラーですね。お邪魔します」

「なにがホラーなんですか? 汚くて狭っ苦しい中忍宅でよければどうぞ」

「扉を開けて住人が一人で笑っていたら、恐怖で思わず閉めたくなりますね。では遠慮なく」

「それは確かに怖い。手ぶらかよ」

「さっきのあんたなんですが。昼に食ったラーメン、まだ胃の中に残ってるかなぁ」

「そうそう、笑うと言えば。土産を辞書で引いて出直してきてはいかがでしょうか」

「へんなところで話を切らんでください」

真顔でカカシが文句をつける。

「気になるでしょう? これがテクニックらしいですよ。気になって次回も会いたくなるそうです」

「微妙な距離にある男女のドキドキテクニックは、心底どうでもいいんですけど」

イルカは悲しくも優しい笑みを浮かべる。

「残念なネーミングセンスですね」

「分かりやすく言ってやった結果がこれだよ」

「では分かりにくくてもいいんで、洒落たのをひとつお願いします」

「まず手本を見せてください」

「dktk」

「何語ですか?」

「ドキテクの頭だけチョイスしてみました」

「俺のを略しただけじゃねぇですか」

「言い訳させてください。考えるのが面倒だったんです」

「いくらなんでもストレートすぎるだろ」

「脳がストライキ起こしました」

「内容変わってねぇですよ」

「もう疲れたよ、カカラッシュ」

「犬じゃなくてパチンコ台みたいな名前になってますがな」

「さて、笑ってた理由も忘れたことですし、夕飯作るとしますか」

「話すのが面倒になりましたね?」

イルカは微笑んで首を縦に振る。

「ちょっ、話してくださいよ」

「今日の夕飯は米ライスにしますね」

「するんじゃねぇ!」

皿の数は多いのに、妙に白い食卓になってしまったのかどうかは、当事者のみぞ知る。


2011.2.24

close