人形


「手に入ってしまうと、途端に興味を失う物ってありますよね」

イルカがため息を吐く。

カカシの目は、イルカの向かって右肩の先を見ていた。

薄笑いを浮かべた子どもと目が合ったのは気のせいだと信じたい。

「だが、悲しいかな、現実だったよ!」

「カカシ先生、いきなり大きな声を出してどうしたんですか? 前から情緒が安定しない方だな、とは思ってたんですけど」

「あんな人形を拾ってくる人間に、情緒がどうとか言われたくありませんね」

「そんなに欲しいなら差し上げますよ」

「話の脈絡無視して、他人に押し付けるのは止めていただきたい」

「不気味さが気に入ったんですけど、俺の部屋の雰囲気が普通すぎて、知人宅で見た衝撃を感じられないんですよね」

「自宅は憩いの空間であって、ビックリスペースではないと知人は早く気付いた方がいいんじゃないかと」

ふっくらしたほっぺたに、小さな黒い目と赤い唇は半笑いで、陶器か何かでできたそれは、夜中に見たら泣いてしまいそうだ。

「捨てましょう」

カカシが真顔で言った。

「これを見ても、そんなことが言えますかね?」

イルカはニヤリと笑い、人形の背に手を回して何かを引っ張った。

途端、人形の目が見開き、顎の辺りから口がカクンとスライドする。

「ヒョーッホッホッホッ!」

「よし、捨てましょう」

「あぁ、カカシ先生の抱き枕が!」

「あまりの怖さに泣き疲れて眠るための枕ですか?」

「子守唄機能まで付いているのに」

「解釈が斬新過ぎるだろ」

「興味がなくなってしまった俺ですが、一度は惹かれた物、いつかまた会いたくなる日が来ないとも限らないんですよ」

「片付けできない人の典型だよ、この人」

「でも、俺は断腸の思いで手放します!」

カカシは思わず拍手した。

そう、翌日自分の家に運び込まれるとも知らずに……。


2011.2.12

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