マスク
イルカは風邪気味らしく、何度もティッシュに手を伸ばす。 ――と、 「……なんじゃこりゃぁぁぁあ!」 叫んだ。 「鼻から真緑の液体でも出ましたか?」 カカシはどうでもよさげに、雑誌を見ながら煎餅をかじる。 「かみすぎて血が出ましたよ! 俺のデリケートな鼻がもうすぐ第二形態に!」 「なにに変形するつもりですか、あんた」 「鼻だけゴン太君?」 「きっと似合いますよ。頑張ってください」 「適当な相づちはやめてください。存在自体が不快です」 「相づちに対する文句と思いきや、まさかの存在否定!?」 「真顔で鼻血垂らしてる人間に存在否定されるとか、ちょっと間抜けですよね」 「早く拭け」 「血を流してる男って、モテそうじゃありません? ダークなイメージを醸し出しつつ歌でも歌えばモテるはず!」 「いつの時代の話ですか。っつーか、鼻からは ねぇだろ」 「流れによっては、そのうち口の端から垂れてるように見えちゃったりしませんかね」 「たんに鼻から大量に血を流してる人じゃねぇですか。ただの惨事だよ」 イルカは眉根を寄せて、しばし黙考する。 「……今思ったんですが、そんな状態で満面の笑みを浮かべたら、そこはかとなく怖い絵面になって愉快ですよね」 「心底どうでもいい脇道にそれんでください」 カカシは大量のティッシュを手に掴むと、力任せにイルカの顔を拭いた。 「ふぉぉぉぉ! 鼻が第三形態になるぅぅぅぅ!」 「一段階スキップできて、お得ですね」 「デリケートだと言ったばかりなのに酷いですよ。何か垂れてようと感覚なくて分かんなくなったじゃありませんか」 「赤く染めたマスクしとけば、全てを覆い隠してくれますよ」 「染めるの面倒です。そんな手間をかけるくらいならば、フィットする小瓶の口を鼻の穴に突っ込んで、それからマスクをすれば完全に覆い隠せる……なにこれ、商品化も近い!?」 「あと50年もして、一般の美的感覚に変化が生じたら商品化されるかもしれませんね」 「カカシ先生、流行を自ら生み出したくはありませんか?」 「流行って、人から嘲りを受けるという意味ではなかったはずですが」 「カカシ先生がどや顔で颯爽と里を練り歩けば、みんなが振り返りますよ?」 「振り返るか見なかったフリするかの二択しかねぇですよ」 「今気付いたんですが、瓶だと安全面に問題ありますね。ゴム製の方がいいかもしれません」 「考えるエネルギーをもっと別なことに使った方がいいと思うんですが」 「では風邪を治すために使いますんで、寝ます。『鼻血・鼻水を受け止めるんだゴム』を完成させたら起こしてください」 「永眠してろ」 そのネーミングはないだろうと思いつつ、作ったら使用するのだろうか、それならば作ってみたい気もする、と一瞬考えたカカシがいたそうな。 2011.1.14 |