タイツ

「タイツって温いんですかね」

コタツに潜り込みながらイルカが疑問を口にする。

「……女性は真冬でも平気で外を歩きますもんね。実はモモヒキなんかよりも優れてるのかも」

言いながら、カカシは嫌な予感がしていた。

「というわけで、買ってきました」

「予想通りの展開だな、おい」

「3枚組です」

「だからどうした」

「80デニールですよ!?」

「訊いてねぇ! ワケわからんところで声を張り上げんで下さい。大きな声を出すのは重要なところだけ。お兄さんとのお約束ですよ?」

「おっさんがお兄さん気取りとか、痛々しいにも程がある!」

「そこも重要じゃねえ!」

「閑話休題」

「いや、話を戻そうという意図は読み取れましたが、口で言われても」

「今度、フリップを用意しておきますね」

「それ燃やしますね」

「そうしたら芋でも焼きましょうか」

「無駄にいい提案です」

二人は静かにミカンをむく。

「いや、80デニールなんですよ!」

「二回言いやがった!」

「まぁ文句を言う前に見てください」

イルカは手元に置いてあった包材を開けて黒いタイツを取り出すと、引っ張って見せた。

「……薄いですね」

「そう、肌の色が若干見えるくらい薄いんですよ。実に興味深い」

「はくなら一人でどうぞ」

「三枚あるんで、シカマルも呼んでおきました」

「野郎三人とかカオスすぎるだろ。っつーか来るの!? ある意味一番来そうにない人選ですけど」

「まぁ来ないんですがね」

「知ってましたよ」

「秘蔵の古書で釣ってみたのに、食いつかなかったのは残念で仕方がありません」

「声はかけてたのかよ」

「なのでカカシ先生に2枚プレゼントです」

「増やされてもはきませんよ?」

「つまらない人ですねぇ。じゃあ俺だけはきます」

イルカは窓を全開にし、タオルを腰に巻いて黒タイツを着用した姿で登場した。

「どうですか?」

「とりあえず、脅されそうと思う気持ちと、不思議な高揚感がせめぎあってます」

「誰も望んでない赤裸々告白ですね」

「あと、冬の女性は苦行中であることが判明しました。もしくはマゾかもしれません」

「美の探求者の可能性の方が高そうですよ」

「俺は暖を求めていたはずなのに、なにゆえこんな愚かな格好を晒しているんでしょうか」

言いながら、イルカは遠くを見ている。

「そこまでせねば普通の思考に至れないのも、ある種の才能ですよね」

「……うわぁ、これ温かいですよ! カカシ先生も頭に被ってみてください!」

「使用用途すら合ってねぇよ」

「くっ……カカシ先生を惑わせるいいセリフが思い付かない!」

床に手を付き、心底悔しそうにしているイルカを見ながら、今日も平和な一日だったなぁと思うカカシであった。


2010.12.20

 

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