日焼けと美白

「新しい防寒着を買ったんですよ。これで寒い冬も怖くありません!」

イルカはテンションが上がりすぎたためか、ウネウネと妙な動きをしていた。本人は踊っているつもりかもしれない。

「熱の逃げないアンダーウェアとかですか?」

コタツでミカンを食べながらカカシが訊く。

「いえ、上に着るものです。見せびらかしたいのでちょっと待っててください」

隣室に消えて5分、再登場したイルカは茶色っぽい肉じゅばんを着ていた。特殊加工が施されており、リアルな肉質が再現されている。

「小麦色キモい!」

「いいでしょ、この日焼け具合」

「えっなにこれ、何個突っ込めるかのテスト?」

「あまりの魅力に、店頭で見つけて即買いしちゃいましたよ」

「そんな店、滅べばいいと思う」

「実は羨ましいんでしょ」

「どんだけ幸せな思考回路してんですか。キモいって言ってんだから勘弁してください」

「カカシ先生もこの人肌の温もりを知れば、もう他の防寒着など着れなくなりますよ」

「人肌っぽいのかよ」

「ふくよかな方に包まれているかのような仕上がりです。技術の進歩に驚くばかりですよ」

「初っぱなに踏み出す方向を間違えた進歩ですね」

「カカシ先生、ちょっと恥ずかしいですけどペアルックいかがです?」

「ちょっとどころの話じゃないんですけど!? っていうか嫌がらせの域じゃねぇですか!」

「そうおっしゃると思って、色は変えましたよ。美白仕様です」

「拒否されるのは予想できたのに、拒否内容は分からなかった残念な例ですね」

カカシのセリフを無視して、イルカは隣室から美白な肉じゅばんを持ってきた。

「なんつーか、旨そうですね。餠とか生クリーム系の菓子を連想しちゃいました」

「日焼けの方はむっちりした手触りなんですけど、こっちはしっとりしてるんですよ」

「開発者は、なぜ途中で我に返らなかったんでしょうね」

「むしろカカシ先生が我に返ってください」

「ファン心理の恐ろしさを見た気がします」

イルカはずいっとカカシに肉じゅばんを押し付けた。

カカシは遠い目をしている。

「いつまでも絡まれるのと、一回着てみるのと、どちらがカカシ先生にとっていい選択か、考えてみてくださいよ」

「どちらに転んでも嫌がらせならば、着るしかないのか。いや、着たならば調子にのるだけ。俺は負けるわけには……!」

イルカはコタツの電源を抜いて、窓を開けた。

「地味かつ的確な嫌がらせだな、おい」

イルカは悲しくも優しい笑顔で肉じゅばんを手渡す。

渋々肉じゅばんを着たカカシは、突然カッと目を見開いた。

「優しい!?」

「そう、優しい着心地なんです!」

「くそっ……負けるか!」

カカシは即座に肉じゅばんを脱ぎ、恐怖を含んだ目で白いそれを見つめた。

「カカシ先生、いつまで耐えれますかね」

イルカはニヤリと口角を上げながら、窓とコタツを元に戻した。

冷え込みの厳しい朝、カカシは視界に白い肉じゅばんを捉えながら身支度を始める。

この葛藤も何度目だろうか。いつか自分はこれに屈服するかもしれない。まだ大丈夫、今日は耐えられた。プライドは守られている。

カカシは眉間にシワを寄せながら、肉じゅばんに背を向けた。


2010.11.29

 

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