素敵入浴剤

「最近の入浴剤って凄いんですよ」

イルカは茄子の漬物を箸でつまみながら言った。

「昨今どころか過去の入浴剤事情も知らないんですが」

言って、カカシはポリポリと沢庵を食べる。

「またまた、入浴剤に興味がない人間なんているはずがないことくらい、俺だって知ってますよ」

「あんたはいったい何を知っていると言うのか……」

「まさかカカシ先生は入浴剤に興味がないだなんて非里民なことをおっしゃるんですか!?」

「非里民って、語呂がすこぶる悪いですね」

「ひらがなにすると、ご当地キャラクターみたいでかわいい感じになりますよ」

「生きていく上で、とてつもなくどうでもいい情報をありがとう」

「人生には寄り道も大切ですからね」

「あからさまな嫌味すら通じぬとは」

「ピュアでごめんなさい」

「本当にピュアな奴は、自分から言ったりしません」

「ピュアなのに自分から言っちゃう新ジャンルのキャラの誕生に立ち会えたことを光栄に思えばいいと思います」

「この千枚漬けもうまいですねぇ……って漬物多いな、おい」

「ピュアですから」

「もはや意味が分からない」

話を逸らしたつもりが、成功しているのかいないのか分からぬまま、夕飯の時間は終わりを告げた。

腹もこなれた頃、本を読みながらカカシが茶をすすっていると、後片付けを終えたイルカが居間に戻ってきた。

「カカシ先生、お風呂にします? 寝ます? それとも夕飯にします?」

「ふざけた選択肢が一個ありましたが、大人な俺は無視して風呂に入るとします」

「では、バスボールどうぞ。パッケージにはかわいいマスコットが浮かんでくるって書いてましたよ」

「この歳でかわいい物と風呂に入らされても困惑するばかりなんですがねぇ」

カカシは文句を言いながらも受け取り、風呂場に向かった。

体を洗い、バスボールとともに湯につかる。

なんだかんだ言って、しゅわしゅわと発泡する風呂に入るのは嫌いじゃない。

カカシは溶けてくバスボールを指先で弄んでいたのだが、突然ビクリと体を強張らせた。

──最近の入浴剤って凄いんですよ。

イルカのセリフを思い出し、カカシはゴクリと喉を鳴らした。

バスボールから人の顔が徐々に浮かび上がってきている。本来目や口があるはずの場所に黒い穴がぽっかりと開き、口角だけが少し──注意して見なければ分からないほど本当に少しだけ上がっていた。

微笑んでいるのか人を呪っているのか判断のつかないマスコットは、全身タイツのその全貌を晒し、バスボールという縛めから解き放たれて、ピンク色と化した湯の中をゆらりゆらりと漂い始める。

「本気でキモいんですが! っつーか大人なのに泣きそうなんですが!」

イルカが静かに風呂場の戸を開けた。

「最近の入浴剤って凄いでしょ」

「凄さの方向性を間違いすぎだろ」

「俺的には、わざわざパッケージに『かわいいマスコット』と書いて売り出したメーカーのセンスに脱帽です」

「買う奴がいるから、メーカーが妙な方向に突っ走るんじゃなかろうか」

リラックスタイムを台無しにされたカカシは、パッケージにマスコットイラストが載っていたためクレームをつけることもできず、ただただメーカーが滅びるのを祈るばかりであったそうな。


2010.09.16

 

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