打ち身

風呂上がりにタオルを巻いたイルカを見て、カカシは「ゲッ」と声をあげた。

「えっ? 足から手でも生えてます?」

「生えてたら、逃げるか切るかしますよ」

「もしかすると俺が丹精込めて育ててるかもしれないのに、うかがいも立てずに切るとは何事ですか」

「むしろ育ててた方が何事って感じだよ」

「珍しいものを育ててみたいと思うのは悪いことではありません。人は好奇心を満たそうとすることにより、文明を築いてきたんですから」

「それなりの言葉をそれなりに並べ立てると、それなりに普通のセリフに聞こえるんですね」

「それなりに内容は薄いんですがね」

「自覚してたんですか。なんとタチの悪い」

「自覚してない方がよかったと?」

「それはタチが極悪となるので、さらによろしくありません」

「現状を受け入れて、これくらいタチの悪さでよかったなと思うことが運気を上げるコツだと、どっかの誰かがいつかの時に言っていた気がします」

「正しいような、ただの自己欺瞞のような……」

「信じた者だけが幸せになれるシステムです」

「あんたを野放しにしてたまるか」

イルカは落胆した表情で話題を戻した。

「ところで、さっきの蛙を踏んだような声は何だったんです?」

「あんたの足に物凄いアオタンがあったんで、思わず声が出たんですよ」

イルカの足には、拳大の打ち身がいくつもあった。

「うぉぉぉ! なんじゃこりゃ!」

「気付いてなかったのは予想外でした」

「昨日転んだ時に打ったのかなぁ」

「どんな転び方したら、そんな見事な打ち身ができるのやら……」

「大人なのに、二回転半の見事な転び方しちゃって悪かったですね!」

「足腰弱ってんじゃねぇですか?」

「まだコサックダンスは踊れると思うんですが」

「どんな状況で踊れるのを確認したことがあるのか、質問したら負けな気がするので止めておきます」

「風呂上がりに一人でなんとなく、こんな風にです」

イルカはよろけてしこたま頭を打った。呻き声が聞こえてくる。

「足にアオタンが増えなくてよかったですね」

カカシの嫌味に、イルカは呻き声を大きくしたそうな。


2010.05.24

 

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