手帳

イルカは両の指を絡ませ、テーブルの上においた。姿勢をただしてカカシに声をかける。

「カカシ先生、悩みごとがあるんでしょう?」

寝転んで本を読んでいたカカシは、顔をあげて驚いた表情をイルカに向けた。

「ありませんが……」

「隠さなくてもいいんですよ?」

「いや、隠すものもないんですが」

「じゃあ今から隠してください」

「では今から仕込み作業に入るんで、一週間待ってくださいね」

「ノロマな亀ですか、あなたは! 思春期中年の実力を今こそ発揮すべきでしょう! あなたなら甘酸っぱいんだか青臭いんだか分からない悩みを瞬時に抱えることができるはずです!」

「全力で失礼だな、そこの中年」

イルカはガタガタしながら自分を指差し、小首を傾げる。

「人を中年呼ばわりしながら、自分は青年を気取るつもりですか?」

「全力で失礼な発言したら、あなた引きますよ!? 俺の実力はこんなもんじゃありません!」

「そっちかよ。っつーか、性根が腐ってんじゃありませんか?」

「腐りかけのバナナを好む方もいらっしゃいますし、性根が腐ってても、それはそれで好む方がいらっしゃるのではないかと」

「幸せな見解ですね」

「世の中には変わった方もいますから」

「変なところで冷静だな、おい」

「それより……」

「悩みごとはありません」

「老け顔で……」

「悩んでません」

「こっぴどく女に……」

「フラれてねぇよ」

イルカはため息を吐いて手帳を開き、なにかしら書き込みながら訊ねた。

「では、好きな草は?」

「誰に俺の情報を売るつもりだ」

「不特定多数」

「もはや言い訳すらせんとは……」

好きな草の情報なんて、いったいいくらで売れるんだろうか、などと少しだけ興味はあったが、カカシは即座に手帳を燃し、勝ち誇った笑みを浮かべる。

第二、第三のイルカ手帳があることを、この時のカカシは知る由もなかった――


2010.04.20

 

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