感謝の気持ち

雑誌を読みながら、イルカがカカシに訊ねた。

「カエルとカンガルー、どっちが好きですか?」

「ペットとして飼うなら……といった類で考えていいんでしょうか」

「それでも構いませんよ」

「じゃあカエルで」

「わかりました」

イルカはそう言うと、雑誌に視線を戻した。気になったカカシは、イルカの肩越しに記事を読む。

バレンタイン特集だった。

「まさかとは思いますが、あんた……」

イルカは真面目な顔で頷く。

「俺、男ですが、バレンタインに日頃の感謝を込めて、手作りチョコをプレゼントしようかと思っております」

「ペットの話で考えていいとか、大嘘じゃねぇですか! なにそれ、具材!? まじないでも施す気ですか!?」

「ペットで考えても構わないと言っただけで、ペットの話そのものだとは言ってません。大嘘呼ばわりとは失礼ですねぇ」

「チョコに肉を練り込んで渡す人間の方が、よっぽど失礼ですがね」

「そんなことしませんよ?」

「まさか俺の早とちりですか?」

「コーティングするだけで、練り込むなんて面倒なことはしません」

「うん、そんな流れだと思いましたよ」

「話が早くて助かります」

「むしろ俺を助けて」

「甘いチョコで救ってさしあげますね」

「中身が甘くねぇよ」

「ちょっぴりビターで大人の味です」

「舌が機能していない大人に向けた食べ物を口にしたくありません」

「じゃあ鳩にしますね」

「肉から離れてから『じゃあ』というセリフを吐いていただきたい」

「やっぱり、当日のお楽しみにしておいた方がいいかも」

「楽しめる要素がないので、チョコいりません」

「俺の感謝の気持ちですよ!?」

「気持ちだけで、充分お腹いっぱいですから」

「分かりました。楽しみにしててください!」

「あんたは何を分かったというのか!」

「実はチョコレートが欲しいけれど、いらないというスタンスで格好よく決めて、当日『断ったはずですが』と言いながら、嫌々といった風に受け取る作戦ですよね。さすがイルカ宅の策士と呼ばれた男!」

「どこの年頃の少年だよ、それ」

「男はいつまでも少年ですよ」

「すみません、すっかりオッサンになっちゃって」

「オッサンにはビターなアレですよね、やっぱり」

「……ありがとうございます。楽しみにしてますよ」

カカシは爽やかにそう言った。イルカが眉根を寄せる。

「もらってばかりだと悪いんで、当日は俺の用意するチョコも受け取ってくださいね」

微笑んでいるのに目が笑っていないカカシを見て、イルカは口角をつり上げる。

挑戦状を叩きつけられたのだ。鳩なんて可愛いものをコーティングしたくらいでは失礼だろう。

「カカシ先生、本気でいかせてもらいますからね」

「もちろん、俺も手を抜いたりしませんよ」

愚かな男どもが決戦前に正気に返ることはなかったという――


2010.01.30

 

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