教え子

「俺、イルカ先生みたいな忍になりたいんです!」

目を輝かせ、生徒の一人がそんな告白をした。

イルカは少年を見て微笑む。

「そうか、小者になりたいのか」

「ちょっ、先生、なんですかその自虐発言」

「そっ……そうだよな、おおお俺は小者なんかではないはず、小者なわけがない。小者だなんて言ったやつぁ誰だぁぁぁ!」

「あんただぁぁぁ!」

後ろから飛び蹴りで登場するカカシ。

「情緒不安定すぎて怖いわ! 生徒も驚くでしょうに」

「相当ストレスが溜まってるんですね、先生」

「やっやめろ、俺を哀れみの目で見るな。っつーか、こっち見るな」

少年の目には先程までの輝きがなく、どこか優しさを有したそれに変わっている。

「人間的にできた生徒ですね」

「ついでに俺も褒め称えていいですよ」

「立ち直りの早い小者ですね」

「小者の意地を見せてみました」

「あぁ、もう小者は否定しないんだ」

「受け入れる大切さを知っていますから」

「もっと違ったシチュエーションで言うと、いいセリフなんですがねぇ」

――と、生徒が手で二人を制した。

「お話の途中で悪いんですが、イルカ先生を尊敬すると不都合でもあるんですか?」

「将来、俺のような忍になった時、お前がそれ以降も努力するならかまわない。だが俺を終着点としてしまったら、お前はたんなる村の――社会の歯車になってしまうだろう。それはお前の可能性を潰すことになる。だから目標はもっと高く持て。本当は、お前の妄想によって美化され続ける俺を越えられるわけがないと思っているんだが」

「ラストのセリフがおかしくなっちゃってることに気付いてください」

「昨今の若者の妄想力を侮ってはいけません! たぶん妄想の俺は、七色のオーラとかまとっちゃっているはずです!」

「どんだけ自分を美化したいんですか。社会の歯車を自覚しているくせに」

「歯車大切ですよ!?」

「噛み合わない歯車は大切じゃないかもしれません」

「カカシ先生、そこまで自分を卑下なさらなくても!」

「俺は社会に適合してます」

「しかも自覚がないなんて!」

「失礼極まりねえ!」

「さぁ我が教え子よ、ジャッジ!」

「はい。どちらも適合できているかは怪しいですが、職務中の素行に問題があると聞いたことがありませんので、適合できていると考えるのが妥当かと」

「そんな真面目な回答など、誰がいつ望んだ!?」

「先生はどんな回答を希望されてたんですか!?」

言いがかりだから放っておけばいいのに、と少年に対して思わなくもないカカシ。

この後、イルカにみっちりと受け答えのノウハウを叩き込まれた少年は、ちょっと変わった子という評価を周りから受けるようになるのだが、それはまた別のお話。

少年がイルカを越えることができたのか――それは当人のみぞ知る。


2010.01.20

 

close