孫衛門

雪が積もった。

イルカ先生に鍋でも用意してもらうか、などと思いつつ、カカシは足を早める。

――と、目的の人は珍しいことに、カカシに背を向けて自宅アパートの前に座り込んでいた。

声をかけようとした時、イルカが動いた。

「ヘルブリザァァァァド!」

ものすごい勢いで大量の雪が宙を舞い始める。雪をすくい投げるイルカの手は止まらない。

「やだなぁ。この不審者、やっぱり俺が止めなきゃいけないのかなぁ」

ピタリと手を止め、イルカが振り返る。

「おやっカカシ先生、明けましておめでとうございます」

「おめでたいのは、あんたの頭ですよ」

「めでたくないより良いですよね」

「お願い、俺のセリフの真意を読み取って」

「それより、ほら、新年の挨拶を忘れてますよ」

「ああ、明けましておめでとうございます」

「喪中なんですがね」

「誰がお亡くなりになったんですか?」

「ミミズの三笠之介孫衛門が、釣りの餌になって……」

「はい、この会話は終了しますよ」

「冷たい人ですね。三朝之介孫衛門が哀れです」

「哀れだと思うなら、せめて名前くらいは間違えずに呼んでやれよ」

「たかがミミズの名前を間違えたくらいで指摘するなんて、相変わらずカカシ先生は細かい性格してますね。ハゲますよ」

「今年の抱負は、あなたの発言に動じないことにしましたんで」

「俺の今年の目標は育毛剤の開発です」

「ハゲません」

「坊主にはなるかも」

「刈られてたまるか!」

そんな怒鳴り声は、イルカがカカシに向かって再会したヘルブリザードなる奇行によってかき消された。

今年も変わりなく過ごしていくであろうことを予感させてくれる、そんな新年のお話。


2010.01.13

 

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