黒の中の白

「白髪がぁぁぁぁ!」

イルカの叫びが部屋中に響いた。

カカシは寝転がって饅頭をを口に放り込みつつ、読書を続けている。

「……白髪がぁぁぁ!」

「反応しなかったからって、白髪ごときで二回も叫ばんでください」

「さすが、万年白髪の方は余裕でいらっしゃる」

「白髪じゃねぇですよ」

「さておき、発見した白髪を見失い、絶望にも似た叫びをあげる俺を無視するとは何ごとですか」

「発見した絶望じゃなかったんですね」

「抜きたかったんですが、うっかり見失いました。抜いた後にやる気のない白髪を凝視するのが何よりの楽しみだというのに」

「あんたの楽しみは全部白髪以下かい。っつーか俺の髪を全部むしりたいとか愚かな野望は抱かないでくださいよ」

「黒の中に埋もれた白髪に魅力を感じるのであって、全白髪のあなたの髪は、完全に興味の範囲外です」

「だから白髪じゃねぇですよ」

「整った顔立ちに、クセのある銀髪。どこか眠そうな目は、その実鋭くて……以下略。あんた、人生なめてんですか?」

「鬱陶しい絡み方をせんでください。なにそれ、ひがみ?」

「ちなみに俺はきっと『特徴といえば鼻の傷ぐらいの中忍』ですよ。あれ? ひがんでも責められないくらいの残念な立場じゃね?」

「残念な人間の上、人に絡むなんて最悪ですね」

「どうせ残念な子なら、堕ちるところまで堕ちてしまおうかと」

「嫌な方向に全力投球だな、おい」

「それが俺のいいところです!」

「いい面が一つとしてなかったんですが」

「ほら、元気がいいとか、声に張りがあるとか……しょせん俺なんてその程度の人間……」

しょげた顔をするイルカに、カカシが優しい笑みを向けて言った。

「心底残念な子ですね」

「あなたは空気の読めない人ですね」

「流されて、俺があなたのいいところを列挙するとでも思いましたか? お断りだ」

「くそっ……列挙した直後に、あなたの発言を嘲笑うシミュレーションまでしてましたよ」

「策に溺れましたね」

「反省し、次回にいかしていきたいと思います」

「俺はそれに対する回避スキルを高めておきます」

にこやかに宣言を交わす二人の姿がそこにあった。

この日から、よく分からない攻防戦が始まったそうだが、それはまた別のお話。

白髪はしばらくして無事に抜かれ、イルカはニヤニヤとそれを見つめていたそうな。


2009.12.14

 

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