肉襦袢

帰途、カカシは前方を歩く男を見ていた。

髪型からしてイルカであろうと予想はできるが、体が横に3倍近く肥えている。

と、件の男が振り向き、手を振った。

「カカシ先生、どうせ今日も夕飯たかりにくるなら、一緒に帰りましょう」

「人聞きの悪いことを言う肉襦袢ですね 」

「肉襦袢をなめないでください! これよりもっとゴツいんですから」

「肉襦袢へ、ごめんなさい」

「どうしたんですか、いきなり肉襦袢に謝ったりして。先の任務で肉襦袢に呪われでもしたんですか?」

「くだらない呪いですね」

「くだらない呪いの方が、呪術者の趣味が入ってる分、手が込んでて解きにくいんですよ」

「まぁ、呪いじゃないんですがね」

「俺の『肉襦袢に謝れ!』というセリフを先に潰しにかかったのは知ってますがね」

「そこまで分かっているのは大変結構。もちろん次に言うセリフも予想済みですよね?」

イルカは服に手をかけ、申し訳なさそうに言った。

「貸して欲しいと言われても困るんですが」

「貸してもらった方が困るわ!」

「カカシ先生は寒さに強いんですね。異界の生命体かなにかですか?」

「どこまで寒さに弱いんだ、あんた。っつーか、それでよく忍が務まりますね」

「俺、冬は忍じゃないんで」

「んなわけあるか」

「できれば任務は、出会いの季節か、もしくは蝉が亡くなりゆく季節に限定したいものです」

「春と秋だけ仕事希望しても無駄です」

「そう、世の中とは無情なもの」

「己の怠惰を棚にあげて、世の中を非難しないでいただきたい」

「今時の若者ですみません」

「あんた以外の若者に、誠意を込めて謝罪することを希望する」

「ごめんね?」

「疑問符が腹立たしい」

「すまん、許せ」

「上から目線って、どうよ」

「じゃあどうしろって言うんですか!」

「普通に謝らんか! 脳みそちょびっとしかないのかよ、あんた!」

「見たことないから知りませんよ!」

「俺もだよ!」

「じゃあ言わんでくれませんかね!」

「論点まるごとズレてると気付いて……早く……」

「気付いているけど気付かないフリをするのが、恋の駆け引きだそうです」

「気付いているけど相手にしない、という態度も悪くないかと」

「なるほど、一考の価値ありですね」

「まずは誰かに惚れてもらわなきゃ意味ないですが」

イルカはハッと表情を変える。

「この肉体美に誰かが惚れたらどうしよう!」

「美しすぎて滑稽ですね」

「ほら、着膨れした人が好みって女性もたまにいますし」

「聞いたことねぇよ」

「俺もないんですがね」

「会話する気あるのか問いたい」

「俺は夕飯に何が食べたいか問いたい」

「サンマ塩焼きを希望します」

「じゃあ肉じゃがにしますね」

腹に入るなら――というか肉じゃがもいいなぁ、とカカシは思ったらしい。

ちなみに夕飯はもつ鍋だったそうな。


2009.11.28

 

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