雨の日
イルカは廊下の窓から外を眺めながら、ため息を吐いた。夕方だと言うのに空は暗く、雨が降りだしている。 「イルカ先生、悩みごとですか? よかったら聞きますよ。俺じゃあ頼りないかもしれないですけど」 イルカの肩をポンと叩いて、カカシが言った。 イルカは振り返り、カカシに笑みを向ける。 「相談する相手のチェンジをお願いします」 「そこは『頼りなくなんかないです』って言って語り出すところでしょ!?」 「自分で頼りないと言っておきながら、相手が否定して語り出すシナリオを描いていたなんて、とんだ策士ですね、カカシ先生」 「やらしいところに着目すんな。たんなる好意も受け取り手がネガティブだと台無しだな、おい」 「まぁ、そんな話はさておき」 「さておくな。繊細な心が傷だらけだよ」 「軟膏でも塗っといてください」 「あんたは頭の良くなる薬を塗ってください」 「まず開発していただかないと無理ですね」 「本当ですね」 ギリギリと奥歯を噛み締めるカカシを無視して、イルカは窓の外に目をやった。 「雨を見ると、俺も大人になったなと思うんです」 「いきなり語り出さんでください。っつーか、チェンジとまで言われた俺に話を聞けと?」 「今日は大サービスですよ」 「俺のワガママをきいてやってるというスタンスやめい」 「あながち間違っちゃいない!」 「どこもかしこも間違いだらけじゃねぇか!」 「話を聞きたくないとおっしゃる?」 「聞く気はしょっぱなのセリフで70%減少しておりました」 「30%も聞きたい気持ちが残ってるなら、これは話さねば!」 「お腹空いたんで、話は短めにお願いします」 「まぁ、そもそも悩みごとなんてないんですが」 「一瞬で終わりましたね。っつーか、さっき語り出そうとしてませんでしたか?」 「なにかしら期待されてたようなので、ポエムでもと思いまして」 「あぶねぇ、とんでもない物を聞かされるところだった」 「それじゃあ今から披露しますね」 「危険物指定してんだから、勘弁してください」 「つまらない人ですね。じゃあ、童心にかえって雨の中をはしゃぎ回りますか」 「不審者と呼ばれたい願望でもあるんですか?」 「カカシ先生には、カメムシ色のカッパが似合うと思います」 「聞けや。不審者二人に増えちゃってるよ」 イルカはため息を吐き、雨を愛しそうに、でもどこか辛そうな表情で眺めた。 「子どもの頃に当たり前にできていたことが、大人になると難しくなるんですね」 「いいこと言ってる風ですが、話の流れを見ると愚か者以外の何者でもないですね。っつーか、雨の中で遊びたがりすぎだろ」 「カカシ先生も口に出さないだけで、本当は我を忘れてはしゃぎ回りたいんでしょ?」 「俺が『うん』と言ったらどうするつもりですか」 「テンション最高潮の時を見計らって通報します」 「通報者を排除してから、はしゃぎ回るとします」 逃げるイルカ。 追うカカシ。 雨の中を疾走する彼らは、傍目にはたいそうはしゃいで見えたそうな。 2009.11.13 |