秘訣

「カカシ先生、モテますよね」

食後の茶を堪能した後、湯飲みをちゃぶ台に置きながらイルカが真顔で言った。

「いや、別に」

「ご謙遜を。っつーか俺に対する気遣いですか? モテる男からの同情は、受け取りを断固拒否します。むしろ滅びろ」

「つまりモテたいんですね?」

「秘訣を教わってあげなくもないですよ」

「いや、秘訣とか分からないですし」

「なに、その真性モテ男発言! しかもさりげなくアピールするなんて、恐ろしい子っ!」

「まぁ……強いてあげるなら、人前ではあまり喋らない事くらいですかね。喋らないとミステリアスでいいみたいですよ」

イルカは黙って虚空を見つめ始めた。気だるげな視線は天井を越え、その先にある何かへと向けられているようである。

「いかがでしょう」

どれくらいそうしていただろうか。イルカは遠くを見たまま訊ねた。

「黙れとは言いましたが、アンニュイを演出しろとは言ってません」

「アンニュイをプラスすることで、モテ期が始まる予感がしたんです」

「俺は宇宙との交信を始めたのかと思いましたよ」

「ミステリアスはクリアですね」

「今までの話の流れを無視していいなら、ミステリアスはクリアですよ」

カカシのセリフを聞き流して、イルカはにやにやしている。

「モテ期が到来したらどうしよう。人生でモテ期は3回あるらしいし」

「当分こないんじゃないかなぁ」

にやにやした表情から一転、イルカのそれが悲痛なものに変わる。

「むしろ120歳越えてから3回きたらどうしよう!」

「どんだけ長生きするつもりだよ、あんた」

「大昔の王様は何万年も生きたそうですよ。粘土板だか石板だかが発見されてますが」

「あんたは現代の一般人です」

「俺、実は王様なんです」

「近年まれに見る頭の悪い嘘ですね」

「本当の名前はオンカカカビサンマエイソワカです」

「適当な設定の肉付け始めんでください。っつーかそれ、地蔵菩薩の真言じゃねぇかよ」

「先程爆誕したニューフェイスの神に対して、適当だなんて失礼な! 滅びろ!」

「どこの荒神だよ! ってか、王様って話はどこいったの!?」

イルカが怯えるような目でカカシを見る。

「そんな嘘話……信じちゃってたんですか?」

「信じるか、バカタレ」

「じゃあ聞き流せばいいじゃないですか!」

「逆ギレかよ!」

「我が神聖なる怒りを逆ギレなどとは業腹」

「神様気取りとか、見ているこちらが恥ずかしい……」

「恥ずかしがる必要などありません。さぁ、自然の流れに身を任せ、自らを解放するのです!」

「今度は教祖様が爆誕しちゃったよ……」

──端から見てたら愉快かもしれない人、って位置付けなんだろうな。

カカシは、イルカの世間での位置付けを予想しながら、確信に近いものを覚えていた。


2009.10.20

 

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