芸術家

「ただいま。髪切ってきました」

イルカ宅に上がり込み、居間へと移動しながら、カカシが何気なく言った。

「床屋なめてんですか!?」

居間に足を踏み入れた瞬間、イルカの足の裏が見えたので、カカシは飛び蹴りを華麗にかわす。

「俺、床屋に失礼なことでもしましたか?」

「まったくもって失礼です。なんですか、その髪型は」

着地に成功したイルカは、ビシッとカカシの頭を指差した。カカシは自分の毛先を摘まんで、少し短くなったことを実感する。

「三センチ切りました」

「床屋の無限の想像力を、あなたは自らの保身のために捨てさせた、という事実に気付いてますか?」

「金払って身を売るつもりはありません」

「冒険してこその人生じゃないですか。今ごろ床屋も思っているはずです。髪型ひとつかえられないチキン野郎め――と」

「そんな床屋は潰れてしまえ」

「芸術家の活躍の場を奪っておきながら、なんたる暴言!」

「床屋は客商売だよ。技術職であって芸術家じゃねぇよ。っつーか暴言吐かれたのは俺だよ!」

「カカシ先生は、すぐ被害者面しますよね」

「被害者が被害者面して何が悪い」

「本当の被害者というのは、実は気付かないところにいるものです」

「ちなみに、あんたは被害者じゃないですよ」

「先読みされた! なんか気持ち悪いですよ、カカシ先生!」

「大方、つまんない髪型にしてきた俺に対してショックを受けたとか何とか言うつもりだったんでしょうに」

「大正解です。カカシ先生、今日は本当にどうしちゃったんですか? 凄く気持ちが悪いんですけど」

「あんたの言いそうな事は大体分かりますから」

「じゃあ、俺が今から何をしようとしてるか分かります?」

問われ、カカシは即答した。

「バリカンで俺を丸坊主にしようとしてる」

「残念、虎刈りだぁぁぁぁ!」

「うるせぇ、バカタレがぁぁぁ!」

バリカン片手に襲いかかるイルカ。

隙を見てバリカンを奪い取ろうとするカカシ。

翌日、弁髪のイルカが周囲の目を引いたそうだが、それはまた別のお話。


2009.10.10

 

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