水道水

台所で麦茶を注ぎながら、イルカが訊ねる。

「カカシ先生も何か飲みます? 桃汁・梨汁・青汁、各種取り揃えてますが」

「麦茶くださいよ」

「残念ながら、麦茶はたった今ソウルド・アウトしました」

言って、イルカは麦茶を飲み干した。

「……水道水」

「昨日から変な色した液体が出るようになっちゃった水道の水ですね、かしこまりました」

「妙なオプション付きのオーダーを通すな! っつーか、早く直してもらえ!」

「連絡済みですんで、ご心配なく」

「ちゃんと修理屋呼びましたよね? 『アスマ先生に連絡しました。きっと直してくれるはずです』とか頭痛い発言しませんよね?」

「最近暑かったから、頭わきましたか?」

「くそっ……腹が立つのに、嫌な可能性を一つ潰して安堵感を覚えているのも、また事実」

妙な敗北感を味わっているカカシに、イルカが再度問う。

「ところで、桃汁・梨汁・青汁、どれにします?」

「口の中がスッキリしなさそうなラインナップですね」

「辛うじて青汁ならスッキリするかと」

「他に何かないんですか?」

「熱くて良ければ、大サービスで煎茶をいれてあげましょう」

「謎の水道水を使用した煎茶じゃねぇか。騙されねぇよ」

「じゃあ各種飲料で煎茶をいれますか?」

「良い案が浮かんだかのごとく『じゃあ』とか言わんでください」

「干からびて倒れろ」

「ひでぇ!」

「じゃあ選べ」

「うぅ……桃汁で。もしかすると紅茶みたいな味になるかもしれないし」

そんな味にはならなかった。

一口飲んで、どこか遠くを見つめるカカシ。と――視界の端で冷たい緑茶を飲むイルカの姿を発見する。

「なんでじゃあ!」

「なにがじゃあ!」

「なんであんた、普通に緑茶飲んでんの!? 水道話は嘘か!?」

「嘘なんて吐きませんよ。昨日から水道の調子悪かったんで、ミネラルウォーター買い込んでただけです。お茶入れてあげようかと訊ねたら、なぜか気分を害されたようでしたし……」

「ミネラルウォーターの存在を、まず教えんか!」

「水だし緑茶です」

「訊いてねぇよ!」

「その桃煎茶、ドブみたいな色ですね」

「やかましい、あんたが飲みやがれ!」

無理矢理飲まされたイルカは一瞬眉間にシワを寄せたが、「この組み合わせは美味しくないですね」と、普通のコメントをするにとどまった。

後には脱力するカカシの姿があったそうだが、その心中を察する者はいなかったそうな。


2009.8.13

 

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