梅雨
「もうすぐ梅雨が到来しますね」 イルカは陰鬱な顔で呟いた。 「洗濯物が乾きにくい季節ですよね」 カカシが雑誌のページをめくりながら、当たり障りのない言葉を返す。 「俺はカタツムリの呪いだと思うんですが、カカシ先生はどう思います?」 「あんたの思考がどうかと思います」 「もしかして、カカシ先生は紫陽花の呪い派ですか!?」 「そんな派閥あるの!?」 驚くカカシに、イルカは勝ち誇った笑みを向ける。 「世間知らずな方ですねぇ」 「そんな奇っ怪な世間など知りたくない、とお伝えしておきましょう」 「ちなみに、雨を喜ぶ蛙の呪い派というのも存在します」 「喜んでるのに呪い扱いしてやるなよ」 「雨降りすぎて生態系が壊れたために滅んだ、ある蛙一族の呪いです。喜んだ分、苛立ちも一入だったそうで」 「無駄に設定細かいですね」 「我ながら気合い入れて考えましたから」 イルカは、やりとげた男の顔をしていた。 そんなイルカを一瞥し、カカシは雑誌に視線を戻して会話を続ける。 「梅雨は鬱陶しい面もありますが、風情もありますよねぇ」 「無理矢理話を元に戻そうとしないでください」 「優しくスルーしてあげようと思ったんですが、触れられないなら触れられないで悔しいみたいですね。鬱陶しい」 「今は鬱陶しいかもしれませんが、時折風情を醸し出す男でもあります。そう、まるで梅雨のように!」 「思い切って乾燥機買いましょうか」 「梅雨男──そう呼ばれた時期もあります」 「あぁ、でも置くスペースないな」 交わることのない会話は、この後たっぷり一時間続いたそうな。 「お前ら会話しろよ」 そんなセリフを吐く人間は、残念ながらこの場には存在しなかった。 2009.6.3 |