地味
イルカが拳を握りしめ、騒いでいた。 「俺の時代がやってきたぁ!」 「気のせいですよ」 「カカシ先生、何を根拠に一刀両断するんですか?」 「イルカ先生、存在丸ごと地味だから」 「地味じゃない! 万年中忍だろうが、『案外存在感ないよね』なんて時おり言われようが、地味なんかじゃないんだ!」 「ところで、あんたは何で騒いでるんですか?」 イルカがハッと我に返る。 「聞いて驚いてください」 「驚かなきゃダメなんだ」 「なんと、福引きで米10キロ当たったんです!」 カカシが目頭を押さえる。 「今まで辛い人生を歩んできたんですね。米当てただけで、そこまでテンション上がるなんて」 「このあいだも米5キロ当たったし、その前も米10キロ当てたんですよ」 「米の神に祝福されすぎだろ。地味に怖ぇよ」 「カカシ先生は嬉しくないんですか?」 「まぁ、米は毎日食うもんだし、当たればラッキーとは思いますが」 その返答にイルカが微笑む。 「小さな事にでも全力で喜べ、さすれば人生も愉快になると、どっかの俺が言ってました」 「先達のセリフと思いきや、言ったのあんたかよ」 「目から鱗だったようですね」 「いや、全然」 「出せよ、鱗!」 「人体の構造上、不可能なミッションを押し付けんでください」 イルカが顎に手をあて、真剣に考え込んでいる。やがて真顔でカカシを見ると、静かな口調で訊いた。 「年末の宴会芸、目から本当に鱗出したらウケますかね」 「本当にどこまでも地味な人ですね、あんた……」 地味なイルカが地味な芸を披露したのか、それは今年の忘年会参加者のみぞ知る。 2009.5.17 |