迷子

カカシとイルカが帰途で少年を発見した。

年は4つくらいだろうか。どうやら迷子らしい。

イルカはカカシと目を合わせ、そして頷く。

「素通りしましょう」

「待てこら、流れを読め」

「いい年したオッサン二人が子どもに声をかけて、万一人さらいと間違えられたらどうするんですか!?」

「状況を説明します」

「だめだ、胡散臭すぎる!」

「普通に酷ぇ!」

そのやり取りを見ていた少年はビックリしていたが、やがてクスクスと笑い出した。

キシャー!

威嚇するイルカの後頭部をカカシが殴る。

「奇行にも程があるだろ」

「いや、世の中が怖いもんだと教えてあげようと思いまして」

「俺はあんたの行動の方が怖かったが」

「世の中を知ることが出来て、本当によかったですね」

「やかましい。子どもが怯えちゃってるでしょうが」

イルカが少年を見る。少年は微妙に視線をそらしていた。

「迷子か?」

イルカの問いかけに少年が頷く。

「俺も迷子だ。人生と言う名の場所で、ずっと……」

「訊いてねぇよ」

「訊かれてませんよ」

「話がややこしくなるんで、あんたは黙ってなさい」

「仕方がないので、会話には参加せず、隣でBGM代わりにお経唱えてますね」

「黙ってろと言いましたが?」

「暗にお断り申し上げましたが?」

「よし、喋れないように潰してあげましょう」

「わかったか、少年よ。大人になったら実力行使。気に入らない奴はねじ伏せるんだぞ」

イルカはポンポンと少年の肩を叩き、晴れやかな顔をカカシに向けた。

「では帰りますか」

「それだと、迷子に声をかけて時間潰しただけの、変な二人組になっちゃいますが」

「違うんですか!?」

「違うわ! さっさと親を探しに行ってください。俺はここで少年と一緒に待ってますから」

「なに楽な方を勝手に選択してるんですか」

「あんたと二人っきりにできないからですよ」

「嫌だなぁ。俺も大人なんですから、喧嘩なんてしませんよ」

「もっと得体の知れない状況になりそうだから、やっぱり俺が残ります」

イルカは少年に向き直り、言った。

「少年よ、君に選択権をあげよう。俺と二人きりになれた暁には『イルカの兄貴、リスペクトゥ!』と、心の底から叫べる人間になれると思うが、いかがかな?」

「誰も幸せになれない選択ですね」

「失礼な、確実に俺だけは幸せですよ。楽しいから」

「……俺が行って、イルカ先生の洗脳が終わる前に親を見つけてくる方が早いかもしれん」

諦めたカカシの呟きを聞いて、少年は頬をひきつらせながらキョロキョロと辺りを確認し、叫んだ。

「お母さん!」

二人に頭を下げて走り去る少年。

呼ばれた女性は虚をつかれた表情をしていたが、二三言葉を交わした後に、少年に袖を引かれて去っていく。

「良いことをしちゃいましたね、カカシ先生」

「なにもしてねぇよ。っつーか……」

あれ、ただの通行人なんじゃ……、という言葉は飲み込んだ。

その後、少年が本当の母親に会えたかどうかは、誰も知らない。


2009.3.9

 

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