風邪

布団にくるまっているイルカの目は、死んだ魚のようだった。それを見てカカシが呟く。

「一日見ない間に、鮮度がえらく失われたな」

「風邪でぶっ倒れた人間に対する言葉とは思えません。っつーか人に対する表現じゃねぇですよ。生まれ変わって俺を崇め奉れ」

「最後の方のセリフが熱による戯言なのか、まともな頭で考えた戯言なのか、興味あるようなないような……ないようなあるような」

「文章を無闇に長くしないでください。聞く気はないが、不快です」

「せめて聞く意思を持ってから不快を表明してください」

「存在丸ごと不快だが、そんな大人げないことを口にしたが最後、喉の乾きを訴える俺の横で水をがぶ飲みしてくれそうなカカシ先生に乾杯」

「そんなことしませんよ。献身的な俺は、イルカ先生の元気が出るよう、肉汁たっぷりハンバーグを夕飯にしようとしてるくらい心配してるんですから」

「地味ですが、確実にダメージを与える作戦ですね?」

「肉汁飲んで元気になってください」

「肉汁100%でお願いします」

「あんた、いつかその喋りで身を滅ぼしますよ」

「言葉のご利用は計画的に、が座右の銘です」

「前の発言のどこに、そして何の計画があったのか……。っつーか、そんな座右の銘はドブに捨ててしまえ」

「チッ、これだから凡人は。自分の物差しで何でもはかりたがる」

「自分の物差し以外の何を使えと?」

「神の啓示に耳を傾ければいいのです」

イルカは、遠くを見ながら恍惚とした表情を浮かべていた。

――この人、もうダメだ。

カカシは乱れた布団をそっと直し、電波を受信し始めたイルカに背を向ける。

とりあえず肉汁は勘弁してあげよう、そう思いながら静かにミンチを冷蔵庫にしまったのだった。


2009.2.14

 

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