アメフラシ
カカシの背後からイルカが近寄る。 「カカシ先生、これ見てください」 そう言って、カカシの頭に何かをのせた。 「すみません、俺の視界は概ね前方しか見る事ができません……ってか動いたよ! あと何か汁垂れてる!」 「アメフラシです」 「なにから問いただせばいいのか……」 「でっかいアメフラシです」 「やかましい」 「毒性の海藻類は食べさせてませんから、大丈夫です!」 「食べるのはやめておきなさい」 カカシは卓袱台の上にアメフラシをそっと置いた。 「こんなもんを人の頭の上に……って、でかっ! 普通にキモいんですが!」 「汚れるんで、そこに置かないでください」 イルカの口調は至極冷静である。 「俺の頭は汚れてもいいのかと問う気力すら湧いてこない」 「面白く回答できそうにない質問なんで、問われなくてよかったです」 「むしろ面白くもなんともない答えを期待してることに、一刻も早く気付くべきではないかと」 「たとえ単純な事でも、人によっては一生気付きませんよ」 「堂々と、気付く努力を放棄しやがったよ、おい」 「カカシ先生、最近ご機嫌ななめのようですね」 「誰のせいですか」 「アスマ先生」 「真顔であんた……」 「真顔で言わなきゃ、嘘がバレちゃうじゃないですか」 「真顔で言ってもバレてますが」 「……まさか!」 「疑える余地をどこに見い出していたのか気になるが、答えを聞いても無意味だと予想し、黙っていることにする賢明な俺」 「戦う爪と牙を失ったか、はたけカカシよ」 「俺をよく分からない戦いに巻き込もうとするのは、やめていただきたい」 イルカは顎に手をあて、首を傾げた。 「くだらない言い争いだろうと、会話すること自体が大切だと思って」 「綺麗に締め括ろうとする作戦に一瞬引っ掛かるところでしたが、騙されませんよ。おかしな言動を改めてください」 「俺だって、仲良くしようと努力してるのに」 「むしろ優しくする努力を渇望する」 「無茶な!」 「無茶なの!?」 「それよりカカシ先生、大変です!」 「今もたいがい大変な発言ありましたが」 無視してイルカが続ける。 「アメフラシがアクティブに部屋を動き回ってます!」 卓袱台および床が、なんだかえらいことになっていた。 犯人をつかまえ、年末以上に掃除に精を出す二人。 アメフラシがその後どうなったのか、それは当事者のみぞ知る。 2009.1.30 |