大掃除
イルカがカカシにホウキを手渡した。 「……なんですか?」 「別にカカシ先生の同族を発見したので、プレゼントしたわけじゃないですよ?」 「分かっとるわ。勝手に俺を無生物にせんでください」 「この柄の部分、それに先の穂。彼らは確かに生きていた。人間の傲慢な振る舞いにより、命を絶たれて道具と化した彼らをあっさり無生物と呼ぶなんて、あんた鬼ですか!?」 「あーはいはい、大本の内容は知りませんが、脱線してることだけは分かるんで、このホウキの意味をお聞かせ願えますか?」 「籍を入れればいいんじゃないでしょうか」 「んなわけあるか」 イルカは咳払いをして、ホウキを指した。 「年末といえば大掃除です」 「珍しく、いい心がけですね」 「掃除をして気持ちよく新年を迎える。なんて素晴らしいのでしょう! そんな恒例イベントなんてクソ食らえなんで、掃除お願いします」 「お願いされてたまるか」 「普段使っている場所を綺麗にするのが、そんなに嫌なんですか?」 イルカが眉間にシワを寄せる。 「あんたはどうなのかと問いたい」 「気付いたら妖精さんが部屋を綺麗にしてくれていた……そんなシチュエーションがあってもいいと思います!」 「俺妖精かよ」 「うわっキモ」 「本当に」 「個人的には部屋が綺麗になるなら、妖精でも妖怪でも構わないんですけど」 「妖怪とはまた酷い」 「ほらっ、分身倍々ゲームでカカシ先生が増えると、掃除も楽ですよ?」 「自分でやればいいじゃないですか」 「疲労はいただけないので」 「やかましい。やりませんよ」 「分裂しろよ!」 「人を細胞みたいに言うな」 イルカは観念したように溜め息を吐いた。 「……仕方がないので俺も一緒に掃除します」 「俺のセリフだと言いたいところですが、やる気を出したことを評して飲み込みましょう」 「カカシ先生は台所をお願いしますね。俺はコタツの中で湯飲みの中のお茶を片付けますから」 「殴っていいですか?」 「暴力を行使しての解決はいかがなものかと」 「解決しませんが少しだけスッキリする気がします」 「殴られて気を失ったフリをしていれば、スッキリ気分のカカシ先生が掃除を終わらせてくれるんですね?」 「起きるまで茶を飲んでますが」 「それじゃあ殴られ損じゃないですか」 「なんで損だの得だの出てくるのかが、不思議でしょうがありません」 「不思議の世界へようこそ」 「黙れ。ほらホウキ持って動いてください」 カカシがホウキを返すと、イルカは目を細めてそれを見つめた。 「この部屋掃除するのに、ホウキいりますか?」 「あんたが渡したんだよ」 「捏造はやめてください!」 「捏造してるのは誰だ!?」 「俺だ!」 「正解!」 カカシに蹴られてイルカが吹っ飛ぶ。 声をかけても反応がない。 ――窓拭くための古新聞あったかなぁ。 コタツにもぐり込み、そんなことを思いながら、カカシはまず湯飲みの中のお茶を片付けたのだった。 2008.12.18 |