機嫌

イルカが鼻唄混じりで洗濯物をたたんでいた。

「なにか良いことあったんですか?」

訊ねながら湯飲みを二つ、ちゃぶ台にのせる。

「良いことなんてありませんよ?」

「上機嫌じゃないですか」

「ないと言っとろうがっ!」

洗濯物がカカシの顔面に飛んできた。

「なにすんですか!」

「良いことなんて一つもありゃしないのに、無理矢理テンションあげてる人間つかまえて何が聞きたいんですか、あなたは。バーチャルな幸福か? 望むところだ、語ってやらぁ!」

沈黙が場を支配する。

瞬間、イルカの目がキラリと光った。

「妄想ですら幸せを描けない俺を、思う存分嘲笑うがいい!」

「落ち着け」

カカシは洗濯物をイルカの顔面に投げ返した。

「酷い……酷すぎる。俺を精神的に追い詰めたあげく、物を投げるなんて……」

「俺が悪いと?」

「知らないところで加害者になっているなんて、よくある話ですよ」

「そっくりそのまま、あんたにそのセリフをプレゼントします」

「いらないものを貰った時は『ごめんなさい』で突っ返して良いですか?」

「いいわけあるか。ってか、リアルでやんないでくださいよ、それ」

「社会不適合者じゃあるまいし」

「自分が適合できてると思ってるところが凄いですね」

「個人的に適合できてると信じてるだけですが」

「変なところで正しく評価しているというか、現実を理解しているというか……」

「夢見る少女から、現実的な青年に成長したんですから、誉めてください」

「えらくキモい成長遂げましたね」

「俺程度でキモかったら、あなたはどうなるんですか!?」

「あんたの中の俺のイメージこそ、どうなってんですか!?」

「聞かない方がいいと思います」

「俺もそう思います」

会話も一段落し、イルカは再び洗濯物を鼻唄混じりでたたみ始めた。

とりあえず、良いことはなかったらしい。

人の機嫌なんて、見ただけじゃわからないよね、というお話。


2008.11.27

 

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