おとひめ

イルカが神妙な顔で、ちゃぶ台の向こう側にいるカカシを見ながら訊ねた。

「おとひめって知ってます?」

「竜宮城にいる魚類の親戚ですか?」

「俺は魚類そのものだと踏んでるんですが、それじゃなくて、便所にある消音機です」

「……音秘め?」

「間違っちゃいないと思いますが、音姫です」

「それがどうかしましたか?」

「知ってるかどうか訊いてるのに無視だなんて、なんと恐ろしい!」

「名称知らない時点で察せよ」

「あまつさえ自分は悪くないと!?」

「今日ははっきり言わせてもらいましょう。あんたが悪い」

「俺の頭が悪いとか暴言すぎますよ!」

「言ってないのに察しがいいな、おい」

「悪意には敏感なんです」

「その他の事にも、それくらい敏感ならよかったのに」

「本当に残念でなりませんよね」

「なおす気ないな、これは」

二人は静かにお茶を飲んだ。

「最近、音姫を使いましょう的なアピールしている女性が気になりまして」

「てっきり話が終わったと思ってたのは、俺だけじゃないはず」

「あなただけじゃない……? まさか、押し入れにいるアスマ先生も同意見だと!?」

「なに飼われてんだ、アスマァァァ!」

押し入れが勢いよく開かれる。

何もなかった。

静かに閉じられた。

「その女性が美人だとでも?」

何事もなかったかのように問い掛けるカカシ。

「ディティールがすこぶる曖昧な女性の絵を見て、美人だと思う人がいないとも限りませんので、あえて発言は控えます」

「特殊な趣味嗜好の人に対して、配慮しすぎだろ」

「俺のこの一言で、傷つく人がいるかも知れないんですよ?」

「むしろその人は、傷ついて目を醒ますべきではないでしょうか。っつーか、それで傷つく奴が繊細すぎて怖いんですが」

「繊細ゆえに、守ってあげなきゃ感がアップしますよね!」

「しねぇよ」

イルカが曖昧な笑みを浮かべる。

「俺は趣味嗜好で差別したりしませんから、正直になっても良いんですよ」

「俺が肯定したがってるような雰囲気作るの、止めてください。あと趣味嗜好で差別しないと言ってる時点で、一線引いてる事に気付け」

「一線引いててごめんなさい、カカシ先生」

「ワザとだと分かっていても、嫌な流れだ」

「そんな流れを打破すべく、ネオ・俺、降臨!」

「元凶を潰した方が早いとの、神の電波を受信しました」

構えるカカシ。

「生まれ変わった俺に勝てると思っているのですか? 片腹痛い!」

挑むイルカ。

音姫に関する会話は、こうして始まらないまま幕を閉じた。


2008.11.13

 

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