お肉

イルカは生肉の臭いを嗅いでいた。

「傷んでるんですか?」

居間で寝転びながらカカシが訊ねる。イルカは答えず、肉を台所の隅に置く。

「……カカシ先生用」

「ちょっと待て、傷んでるのか答えていただこう」

「屍臭がしました」

「腐ってるじゃないですか」

「屍臭がしたような気がしました」

「曖昧にされても食わないですから!」

「じゃあ、明日に回します」

「話の論点がおかしいです。回すな、捨てろ」

「もったいないじゃないですか。俺の腹は耐えられませんが、カカシ先生の腹ならいけますよ」

「根拠なく、腐ったものを押し付けんでください」

「あなたの体のことは、俺が一番よく知っています!」

「……イルカ先生」

カカシは立ち上がり、イルカへと近づいた。そしてイルカの両肩に手を置き、真剣な顔でのぞき込む。

「いつから俺をモルモットにしてたんですか?」

「痛い痛い、肩が痛い」

「答えると痛くなくなりますよ」

「答えるとカカシ先生の心が痛くなると思うんで――耐えます!」

「優しさ発揮するところを、完全にお間違えのようで。っつーか、そんなに前からなの!?」

「そんなに前からじゃありませんが」

「前からなのかよ」

「冗談です」

「どっからですか? むしろどの発言が?」

「追求せずに、自分が冗談だと思いたい箇所を冗談だと信じ込めば良いものを。選択を委ねてあげようと、わざわざ一言で済ませたのに。人の親切を無にする空気が読めない二十代め!」

「親切が微塵もうかがえないんですけど!?」

「探してください! なんなら捏造してください!」

「最初から捏造希望だ、この人!」

途端、イルカが眉間にシワを寄せる。

「俺、信用ありませんね」

「あってたまるか」

「どうせ信用がないなら、もっとえげつない事を全力でしてやる!」

「なんであんたの努力は、いつもマイナス方向なんですか!?」

「ほらっ、それが……個性?」

「個性という単語は免罪符じゃありません」

「じゃあ……魅力?」

「んなわけあるか」

「今日は機嫌悪いですね。何かあったんですか?」

「やかましいわぁ!」

その後しばらくイルカ宅が騒がしく、隣人が辟易したそうだが、それはまた別のお話。

肉は食べられない程ではなかったため、カレーに入れて美味しくいただいたそうだが、カレーを口に運びながら、屍臭云々が冗談なのだと自分に言い聞かせていたカカシの姿があったとかなかったとか……。


2008.9.19

 

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