王様

「涼しくなってきたことだし、闇鍋しますよ!」

「断ります」

即答したカカシに向かって、イルカは人差し指を横に揺らした。

「あなたの意見は訊いてません」

「暴君がいるぞ、おい」

「ここは俺の家です。つまり俺がルール! 俺、王様!」

「まずは落ち着け、バカ殿」

「たとえバカと罵られようが、一国一城の主なら勝ち組ですよね」

「本当の意味で一国一城の主ならね」

「黙れ、小作人」

「なにも耕したりしてねぇよ」

「余は闇鍋をすると決めたのじゃ!」

「テンション高いな、おい」

「努力して高めてみました」

「恐ろしいほど無駄な努力ですね」

「俺もそう思いますが、カカシ先生と同意見なのも嫌なので、あえて否! 恐ろしくなるほどの無駄さではありません!」

「あんたの発言、丸ごと無駄だよ」

「まぁその辺は価値観の違いですんで、あえて言及はしません……が……覚えてろよ!」

玄関にダッシュするイルカ。無言でタックルするカカシ。

「放してください!」

「どこで何を買ってリベンジするつもりですか?」

「スーパーに薬品臭い鍋スープを買いに行くだけですよ?」

「薬品臭いと認識しつつ購入せんでください」

「舌の痺れる感覚が忘れられなくて……」

「いやいやいや、体に悪いかどうかは知らんが、危険なかおりがしますよ。自愛してください」

「明日からそうすることにします」

「今からしてください」

「じゃあ、原産地がその辺の道端という、すこぶる自然に密着した野草サラダを夕飯にしますか」

「お願い……里にいる時は普通の物を口に入れさせて」

さめざめと泣くカカシの肩に、イルカの手が添えられた。

「じゃあ……行ってきますね」

「泣いてんだから勘弁してくれや」

「泣いて現実が変えられるとお考えですか? なんと浅はかな!」

「己の力で変えてみろ……そういうことですね? っつーか、そう解釈しました」

カカシの目がギラリと光る。

それから二時間後――

カカシ渾身のオムシチューが食卓に並び、イルカは大層喜んだそうな。


2008.9.2

 

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