日常

「はぁぁぁぁ」

カカシは盛大なため息を吐いた。

「陰気臭いですね」

「開口一番、失礼ですね」

「褒められてしまいました。どうしましょう。照れますね」

「俺とイルカ先生の褒め言葉の認識には、深い溝があることを知りました」

「埋めれば良いと思いますよ」

「無理です」

「努力の放棄ですね?」

「最初から放棄してる人間に言われたくないです」

「勘違いなさってますよ、カカシ先生。俺は放棄してるんじゃなくて、はなからその選択肢がないんです。ないものは放棄のしようもありません」

「言い訳になってない言い訳だけは、相変わらずベラベラ出てきますね」

ギリギリと奥歯を噛みながら笑顔を作るカカシ。

「たまに気持ち悪い顔をしますよね、カカシ先生って」

「気持ち悪いとな!?」

「それはさておき……」

「さておくな。つい今しがた、明らかな言葉の暴力があったんですが」

「褒め言葉です」

「んなわけあるかぁ!」

「広がらない話をいつまでも続けるのは生産的じゃないと思いますが」

「俺に謝ってください」

「……sorry……」

「神妙な顔と流暢な謝罪の言葉が、ミルフィーユの皮のごとく幾層にも重なり、絶妙な歯触りを与えてくるかのような腹立たしさと虚しさを覚えました」

「詩的すぎて要点が伝わりにくいですね。30点といったところでしょうか」

「辛口ですね」

「カレーの甘口は嫌いじゃないですけどね」

「訊いてねぇよ」

「訊かれてませんよ」

そう言って睨み合いながら微笑む二人の顔は、たいそう気持ちが悪かったそうな。

カカシのため息の理由、それは忘却の彼方へ――


2008.8.17

 

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